第4話 契約の証
ヒサアキの言っている意味が分からない。私の姿は醜い。
今までだって何度も言われてきたし、さっき姿を見た時も呪いをかけた妖精のように醜い老婆のようだった。彼の世界ではこの姿が綺麗な基準なのだろうか。
「主殿はせっかく綺麗な容姿をしているのですから、もう少し食事を摂って肉を付けるべきだと思うのですが」
「ま、待ってください。ヒサアキの目には私がどう写っているのですか? 醜い老婆には見えていないのですか?」
私の問いにヒサアキはきょとんとしている。もう一度ジッと私を見て首を傾けた。
「いいえ。僕には主殿が僕と同じくらいの少女に見えます。髪はボサボサですが、見たことのない綺麗な色で、瞳の色だって冬の空を溶かしこんだような青色です。とても老婆には見えませんよ」
「……っ」
本当の私の姿だ。ヒサアキが異世界の住人だから妖精の魔法が効かないのかもしれない。
ヒサアキには本来の私の姿が見えていることが嬉しくて、胸の奥が熱くなる。何度殺されても涙なんて出なかったのに、気を緩めたら涙が零れそうになった。
「主殿、いかがなされましたか? も、もしや何か失礼なことを? 申し訳ありませぬ」
頬を伝う熱い雫に気づいたヒサアキが慌てている。私は首を左右に振ってあなたのせいではないと意思表示をするけれど、ヒサアキはずっと慌てている。
顔と頭を覆っていた布を外して素顔を晒したヒサアキが顔を覗きこんでくる。瞳と同じ色の黒い髪の少年は終いには詫びで腹でも切るしか! なんて言い出した。
「違う。違います。少し嬉しかったんです。だから気にしないでください」
「主殿、僕はあなたに仕える者です。あなたの望みはなんでも叶えましょう。主殿の言う悪魔ではありませんが、僕は忍びです。なんなりとご命令を」
ヒサアキは悪魔じゃない。でも、契約で結ばれている。
忍びがどんなものかまだ分からないけれど、今回限りの関係なら一度くらいは望みを口にしても許されるのではないだろうか。
「呪いを……、私にかけられた呪いを解いて」
「
翌日私はヒサアキに呪いのことを話した。ヒサアキの世界でも呪いは存在しているらしく、真剣に話を聞いていた。
「こちらの世界にはまほうなるものが存在していて、ようせい? なる
私からすれば、アヤカシもオンミョウジも聞き慣れない言葉で想像しか出来ない。それはヒサアキも同じだろう。
それでもヒサアキは会話の中かから多くの情報を得ようとしてくれている。
会話の途中で何かの気配に気づいたヒサアキが素早く反応してドアに身を寄せた。そういえばそろそろ村の人たちが薬を買いに来る頃だ。
私は腰を上げると作り置きしていた薬を籠に入れて村人が来るのを待った。少ししてドアの向こうから男性の声がする。
ヒサアキはドアの内側に身を寄せるとスッと姿を消した。驚いている間にもう一度村人から声がかかる。
「おーい、薬を買いに来たぞ」
私がドアを開けると男性が三人ほど立っていた。いつも薬を買いに来る人たちだ。
「いつものでいいんですよね」
「ああ。早くしてくれ」
籠ごと渡すと男性たちは中身を確認してお金の入った麻袋をドアの前に置いて帰っていった。背を向けて足早に去っていく彼らに私は何も感情を持たない。
いつものループした直後に見る光景だ。彼らから見れば私は森の奥に住み着く気味の悪い魔女。薬は利用できるから買ってやっている、それくらいの存在なのだろう。
麻袋を拾った私は紐をほどいて中を見た。銀貨が少しだけ入っている。薬に対する支払いが妥当なのか、お金の価値が分からない私は確認しようがない。
紐を閉じたところでヒサアキが姿を現した。それにビクッと驚く。
「ヒサアキは姿を消すことが出来るのですか?」
「忍びですからこれくらいはできます。それよりも気になったことが」
「なんでしょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます