夜道にお気をつけを




 誰からの言葉だったのか。

 覚えてはいないが、きっとテレビだろう。

 確かに、夜道は犯罪が起きやすいので。

 なるべく夜道を歩かないように。

 夜道を行かなければいけない時は、猛ダッシュで家に帰るようにしていた。


 この日もそうだ。

 脇腹が痛くなるくらい猛ダッシュで家に帰る途中だった。

 声が聞こえたのだ。

 背筋が凍りつくような、不気味でとても冷たい声だった。

 振り返ったら、何かが変わってしまう。

 違う。

 終わってしまう。


 ニゲロニゲロ。

 警鐘が鳴り響くのに。

 同時に。

 終わってしまえ。

 囚われてしまえ。

 そんな声も聞こえる。

 自分の声のようでいて。

 誰か、違う人の声のような。

 懐かしい人。

 思わず、その胸に縋りつきたくなるような。


 恐怖からか。

 安堵からか。

 涙が流れ落ちる。




 夜道にお気をつけを。

 そう言ったでしょう。


 耳元で囁かれた瞬間。

 何かを両の手で押しのけて、駆け出した。

 飛び込めばよかったのに。

 恨めし気な声が聞こえるが、知った事ではない。

 まだ、まだだ。

 まだ私は。




「ええ。まだ、私の手を取りたくないのでしょう。わかっています。いつまでも、あなたにその覚悟が、太陽あなたの世界とさようならができるまで。待ち続けますし。言い続けましょう」




 夜道にお気をつけを。













(2023.10.18)



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