眠る君に最後の口付けを




 キスキスキスキスしてよー。

 ムリです、十歳の君にキスしたら即捕まるから死刑だから。


 活きのいい魚よろしく、地上でピチピチ跳ねまくる君に言ってやった。ら。


 いやだいやいや死んじゃイヤダー。

 君はギャンギャン泣き始めてしまったね。

 君にキスって言うか、一切触れないでいたら死刑にならないから安心してって優しく言ったのに、ギャンギャン泣きが進化して、ガオーガオー泣きになってしまった。

 えええええええ。

 キスはまだ我慢してもいいけど、おんぶ、とか、だっこ、とか、てをつないであるく、とかしたかったって泣かれても。

 無理です。ムリムリ。

 まだまだ生きていたので、どれもこれも無理です勘弁してください。

 君が泣き止むまで土下座をして何とかやり過ごした。

 うん、大丈夫だから、君たちの子どもに手を出すつもりは一切合切ないから、そんなに睨まないでよ我が友人たちよ。




 十年経ったからもうキスしてくれてもいいのに。

 君は泣きながら言ったね。

 昔のように大騒ぎせず、ただただ静かに、涙を流した。

 うん、そうだね。十年経ったからキスしてもいいね、でも。

 私は昔と同じく、無理だよと言った。

 好きじゃないの。

 うん、好きじゃないね。

 そっか。

 うん、ごめんね。

 うん、うん。わかった。困らせてごめんね。ありがとう。


 君は笑った。笑って、手を振って見送ってくれたね。

 ありがとう、こんなおじさんを好きになってくれて。

 ありがとう、困って、ちょっとこそばゆくて、でもとても幸せな気持ちをくれて。

 ありがとう、どうか幸せになってね。


 友人の了解を得て、君の自室に入った。

 気づかれないようにそっと。

 遠い国で君を想っているから、ずっと。

 最初で最後、君の願いを叶えるね。

 露わになっている額に願いを、秘めたる想いを込めて。




 眠る君に最後の口付けを。











(2023.10.18)


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