君の声、笑顔、温もりを僕は探し続けている




 君の声、笑顔、温もりを僕は探し続けている




 消された。

 その情報だけは確かに残っていた。

 人間が一人、自分の中から消された。

 意図的に。

 消したのだ。

 自分が消したのではない。


 どうせ消すのならば、完全に消してくれればいいものを。

 消したという情報だけ残して。

 まったく。

 捜してくれと言っているようなものだろうが。






 はて。どちらだったっけ。

 僕は首を傾げる。

 真っ黄色に染まった銀杏の大樹を前に、腕を組んで、むむむと唸る。

 真っ黄色に染まった扇型のはっぱか。

 白味が強い橙に染まったまんまるしわくちゃの実か。

 はたまた、灰色で分厚く、縦に割れ目がある樹皮だったか。


 さてさて、どれに触ってはいけないんだったか。

 さてさて、そのどれにも触ってはいけないんだったか。


 尋ねたら、君はきっと、呆れたような顔をして答えるのではないだろうか。

 何度も何度も教えたのにまだ覚えていないのかって。

 想像でしかないが。

 きっと、外れてはいないはず。


 ああ、まったく。

 秋の陽気の恩恵を受けられるのは昼間の、しかも正味三時間くらい、か。

 あとはもう、冬だ。冬の到来だ。

 喉が微かに痛みを訴える。

 手が多大に痛みを訴える。

 あと寒さにすくめる首と肩も痛いと訴える。


 まったく、まったく。

 君がこんな中途半端な事さえしなければ今頃は、温かな部屋の中でのんびり過ごしていただろうに。

 こんな。

 寂しさを増長させる季節の、さらに明るい灯火が空から消えようとする中を歩かずに済んだのに。




 早く、はやく。

 探し出して、君と一緒に、いついつまでも温かい場所に居たいのに。




 僕が不甲斐ないからか。

 君が隠れ上手だからか。




 君の声、笑顔、温もりを僕は探し続けている。











(2023.10.16)



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