狂った世界で君だけを愛す




 狂う世界で君だけを愛す




 あなたが私を愛してしまったから世界が狂ってしまったのかも。

 君は微笑みながら言った。


 俺も君も埋め尽くさんばかりに、狂い咲く桜吹雪の中に居た。

 いいや。

 桜吹雪ではなく。

 桜の花びらを焦がす火の吹雪だ。

 けれど、君にこの火はもう見えていないのだろう。

 このまま桜の花びらに埋もれたら、あなたも私も普通に愛し愛される世界に生まれ変われるかしら。

 俺の胸に背を預けた君の頬に火の粉が落ちた。

 真っ白い肌に紅が落ちた。

 その火傷の痕は、まるで桜の花びらのようだった。


 俺の世界からも、君の世界からも、俺たちは祝福されないばかりか。

 俺の世界も、君の世界も、急速に狂って行った。

 おまえたちが一緒になる事は世界が赦さない。

 そう言って、家族や友人、親戚、部下、同僚、上司、近隣住民、果ては見知らぬ生物まで見せつけに殺して行った。

 近づくおまえたちが悪いのだ。

 狂った顔で、狂った声で、狂った身体で、責め立てた。


 狂った世界に耐えられなくなった君もまた、狂ってしまった。

 ずっと、ずっと、ずっと、君は微笑む。

 悲しい時も、怒った時も、君は微笑む。

 今もほら。痛みを感じているはずなのに、君は微笑む。

 微笑み続ける。

 喜怒哀楽を堕として、微笑み続ける。


 世界を狂わせても、君を狂わせても、それでも、俺は君の手を離さなかった。

 君は俺の手を離さなかった。


 未来永劫三千世界に至るまであますところなく。

 この手が離れる事はないのだから。


 ああ。

 ああ。

 狂いたければ存分に狂え。




「とてもきれい」

「ああ」




 狂った世界で君だけを愛す。











(2023.10.16)



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