第19話 待ち受ける敵

 ライカは驚いて顔を上げた。


「なっ!?いくらなんでも無茶だって!あの野郎、どんな奥の手持ってるか分かったもんじゃねー。1人で行ったらそれこそ返り討ちに遭うかもしれないじゃん」


 背を向けたまま、ネスターは続ける。


「こうなったのはもともと俺の責任だ。俺の手で決着をつけてくる」


 ライカは槍を地面に突き立てた。


「仲間を置いていくのは死ぬほど嫌だ。でも、ネスター様にすべて丸投げするのはもっとごめんだね。それじゃ、護衛の意味がねー!1人で行く気なら、アタシもついて行く」


 ライカの宣言を聞いても、ネスターは振り向かない。


「もう一度言おう。これは命令だ、ライカ。俺に尽くす気があるなら、代わりにミミを守ってやってくれ。大丈夫だ。俺は負けん」


 命令と言いながらも、その声音は頼み込んでいるかのように聞こえた。ライカは歯を食いしばる。


「……っ、分かったよ。ネスター様。でも、すぐ片付けて戻ってこないと承知しないからな!」


「ああ、行ってくる」


 ネスターは迷いなく歩き出した。



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 ネスターは足早に大穴の周りを探索し始めた。


 付近には採掘用の道具や瓦礫が散乱している。

 その中に場違いな長剣が転がっていた。新品同然だ。


 ごく最近に冒険者が落としたものだろう。

 ネスターはそれを拾い上げる。


「丁度いい。武器はこいつでなんとかするか」


 抜き身の剣を持ってさらに奥へ進むと、見慣れない構造物が見えてきた。

 それは崖に向かって突き出しており、簡素な操作盤が据え付けられている。


「これは、採掘用の昇降機か」


 よくよく調べてみると、魔力を動力源とするものらしく古びているが動きそうだった。


 慣れない手つきで操作盤を弄ると、ゆっくりと昇降機が動き始めた。

 ガタガタと不安定な動き出しだったが、徐々に速度を増し昇降機は地底へ向かって降下していく。


 錆びて頼りない手すりを掴み、ネスターは穴の底を眺めた。

 高度が下がるにつれて、地底の全貌がハッキリと目視できるようになってくる。


 ふと、ネスターの視線は穴の中央に引き寄せられた。そこには奇妙なものが佇んでいる。

 2足で立つ人影のようであるが、人ではない。


 遠近感が狂うほど巨大なそれは、地底が近づくにつれて大きさを増していくかのような錯覚をもたらした。


「巨人か」


 こんな最奥にいるということは、敵にとって重要な個体かもしれない。あいつを倒してゴーレムマスターの居場所を聞き出すのがいいだろう。


 ネスターはすぐさまそう判断した。


 まもなく昇降機が地底へと辿り着いた。

 ネスターは真っすぐ巨人に向かって歩を進める。


 巨人の姿が近づき、その容貌が露わになる。

 外で戦ったエティンより2回りは大きく、より筋肉質な体つきだ。右手には巨大な両刃斧が握られている。


 額からは1本の角が生えており、その下には丸く大きな目が1つだけついていた。

 その瞳は虚ろで、どこも見ていないかのようだ。


 もう目と鼻の先まで距離が詰まっているが、一向に動く気配がない。


「来たね!剣士くん。待っていたよ」


 覚えのある声が突然正面から響く。


「お前、ゴーレムマスターか」


 巨人に気を取られて気づくのが遅れた。白衣を着た痩せぎすの青年が巨人の隣に立っている。


「まさか、本人がいるとは思わなかった。降伏でもするつもりだったか?」


 白衣の男は不気味な笑みを浮かべた。


「いやいや、キミたちの相手は私が直々にする必要があると判断しただけさ。だが、1人で乗り込んで来るとは命知らずだね。私とこのサイクロプスが相手では勝負にならないんじゃないかな?」


 ネスターは無造作に長剣を突き出した。


「そう思うなら試してみるといい。まとめて相手してやろう」


「くくっ、キミがどこまで健闘できるか。見物だね。あまり退屈させないでくれたまえよ?」


 サイクロプスの瞳がギロリと動いた。

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