第18話 仲間たちとの合流
「急に広いところに出たな」
ネスターが狭い通路を抜けるとそこには広大な空間が広がっていた。
おそらくここは巨大な採掘場だったのだろう。
正面には地下に向けて掘り進められていたと思われる大穴が空いていた。
切り立った断崖から下を覗き込んでみる。底の方にもいくつか照明が設置されているらしく、おぼろげな明かりがチラついている。それでも地底ははるか遠く、目を凝らしてもかすんでよく見えない。
「この下が怪しいな」
ネスターが降りられそうな場所を探して縁沿いに歩いていると、聞き慣れた快活な声が響いてくる。
「いたいた!ネスター様、こっちこっち!」
大手を振っているのは、ライカだ。
「ライカ、無事だったか!」
ネスターは安心して近寄る。
ライカの様子を確認するが、特に大きな怪我は見当たらない。ネスターはホッとした。
ライカは首の後ろに手をやって困った表情を見せる。
「まあ、アタシは大丈夫だったんだけど。ちょっとミミがさ」
そう言ってライカが視線を送っている方向を見ると、そこにはミミがうずくまっていた。
「ミミ、大丈夫なのか?」
ネスターは駆け寄って声をかける。
「まおう様?うう……」
ミミはゆっくり起き上がると、よろよろとネスターに抱きついた。
額にはローブの切れ端が包帯のように巻かれている。その布からはじわりと血が滲んでいた。
「……これは、ひどい怪我じゃないか!まだ起き上がらない方が……」
ネスターの心配をよそに、ミミは瞳を潤ませる。
「うー、さみしかったぁ」
すると、ミミは唐突にネスターの体にしがみついて離さなくなってしまった。
「ぐえっ、ちょっと待て。苦しいから一旦離すんだ。というか、その傷でなんでそんな力が……」
「もうひとりにしないでよぉ」
ミミは肩を震わせている。いつもは掴みどころのない彼女だが、負傷したこともあってよほど不安だったのだろう。
ネスターは観念して、そのままミミに寄り添うことにした。
気がすんだのか疲れたのか、しばらくするとミミはまた横になって休み始めた。
乱れた衣服を直しながらネスターは嘆息する。
それを見て、遠巻きに見守っていたライカが近寄って来た。
「はは、実はアタシもさっきやられたんだ。これだけ動けてるし、致命傷もなかったから今のところは心配ないよ。でも、手持ちの道具だとこれ以上は手当てできなくてさ」
ライカはミミの様子を見ながら悔し気に眉を寄せる。ネスターはミミの周りの血痕を一瞥し、さらには辺りを見回した。
「プラムの回復術なら治せるはずだが、まだ合流はできてないみたいだな」
ライカは努めて明るく振舞う。
「今はまだね。でも、ここでネスター様に会えてよかったよ。警備用のゴーレムがうろついてるせいでミミのそばを離れられなかったけど。これでやっとアタシがプラムを探しに行けるってもんだ」
ライカは槍を手に取って意気込んでいる。
「いや、待ってくれ。ここは最悪の状況を想定して動いた方がいい」
ネスターは難しい顔をしてライカを制した。
「ん?最悪の状況ってなんのことだ?」
ネスターは若干言い淀んだが、ライカの顔を真っすぐに見て話し始めた。
「ミミがこれだけ手傷を負ったんだ。もしプラムがやられていたら、無駄足になる」
ライカはハッとしたが、ネスターは構わず続ける。
「しかも、俺たち3人を仕留め損ねたんだからな。敵は焦っているはずだ。ここでもたもたして、逃げられる訳にはいかない」
冷徹なネスターの論にライカは思わず声を荒げた。
「それって、プラムを見捨てるってことかよ?」
ライカに詰め寄られても、ネスターは動じない。むしろ、落ち着いて諭すように告げる。
「仲間を優先したい気持ちはよくわかる。だが任務達成のためには、これが合理的な判断だ。それに、見捨てる訳じゃない。ここのボスさえなんとかすれば、後からでも助けに行ける」
ライカは言い返そうとしたが、言葉が出てこなかった。
現状がそれほど切羽詰まっていることは理解できたし、ネスターもこの苦肉の策に納得はしていないように見える。
それは彼の険しい表情からも容易に想像できた。
ライカは唇をかんで目を背ける。
「くっ、なら早く親玉を倒してプラムを迎えに……。いや、でも今のミミを置いていくのも、連れて行くのも厳しくないか?ああ、くそっ!どうしたら……」
難しすぎる局面にライカは頭を抱えた。
「大丈夫だ。ライカが悩む必要はない。もう結論は出ている」
ネスターは意を決して踵を返す。
「ゴーレムマスターは俺が倒す。ライカはミミと一緒にここで待っていてくれ」
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