第17話 化身
――今の攻撃、一体どこから?どうやって?
よろよろと立ち上がりながら改めて来た道を振り返る。
洞窟の暗がりの向こう側。遠方の天井付近を見やる。虹色の輝きがじりじりと広がってきている。
それでもまだ遠くにいるはず。しかし、光は正面の石柱からもわずかに漏れていた。
そこにはぽっかりと穴が開いている。
――まさか、障害物の向こうから攻撃されている!?こんなあり得ない威力と精度。このまま放置はできませんね。こちらから仕掛けなければ
意を決したように、プラムは地を蹴って動き出した。
「おや、ようやく戦う気になったかね?」
不意に男の声が響く。こちらの様子をずっと見ているとは趣味が悪い。プラムは眉間に皺を寄せる。
「うるさいですよ。誰だか知りませんが、黙っていてください」
真っすぐ引き返すことはせず、右手側から回り込む。柱と柱の間を素早く駆ける。薄ぼんやりとした鉱石の光を頼りに大きく迂回する。
幾つもの柱の向こう側に光源が見え隠れする。
ここで気づく。敵はこちらの位置に合わせて進路を変えていた。
――魔力感知の類でしょうか。これでは隠れても意味がない。であれば……
プラムは開けた場所に出て足を止めた。杖を構え、魔力を集中させる。
じわりじわりと柱の際から光が溢れ出す。
そこにいるのは間違いない。
『トライアロー』
プラムの杖から3つの光の矢が出現し、別方向から光源に向かっていく。
姿を現したゴーレム。間髪入れずに次々と着弾。
しかし、その攻撃は鏡のように滑らかな体表面に触れた途端、3つとも光を失って消え失せる。
と同時に、巨大な光球がボディから放たれた。地面を抉りながらまばゆい光が迫ってくる。
が、さほど速くない。岩陰に滑り込み、射線から逃れる。光弾はプラムがいた場所を薙ぎ払って脇にあった石柱を吹き飛ばした。
プラムは頭を上げ、眼を見張った。
「魔法が効かない?いえ、吸収して跳ね返してきた?」
「いい洞察眼だね。その通りだよ」
得意げな声が聞こえてくる。
「吸収した魔力は動力として蓄えられるし、攻撃にも転用できる。つまり、原理上魔法では絶対に倒せないのさ。さあ、どうする。諦めるかい?」
プラムはゆっくりと立ち上がった。瞳は鋭く、決意に満ちた光を帯びている。
「つまり、魔力を使わない攻撃なら通用するということですね」
プラムは岩陰から飛び出してプリズムゴーレムの前に躍り出た。
そして、服のポケットからなにかを取り出し、ゴーレムの足元に向かって投げ付けた。
プリズムゴーレムはプラムに狙いを定めて光線を射出する。
転がるように再び物陰に飛び込んだプラムのふとももを閃光が掠めた。
「次の攻撃が来る前に仕留めます」
プラムは両手を地面につけて眼を閉じ、意識を集中させ始めた。
「なにをしている?勝ち目がないと悟ってお祈りでも始めたのか?まあ、他に出来ることがないのは私も同意する所だがね」
プリズムゴーレムは再びゆったりとした動きで移動を開始した。プラムが隠れた物陰に向かって真っすぐ迫ってくる。障害物に沿って機械的な進路を取りじりじりと接近。
ゴーレムの発する光がプラムの姿を徐々に照らし出していく。
ついにプラムの姿を正面に捉え、プリズムゴーレムの動きが止まった。
しかし、ゴーレムは攻撃態勢に入らなかった。
プリズムゴーレムの体に蔦のようなものが絡みついている。その蔦はゴーレムの表面に纏わりついているだけではない。内部にまで浸食し、凄まじい速さで成長していた。
蔦は太さを増すと生物のように波打ち、瞬く間にゴーレムの体を飲み込む。
逃れることはできない。蔦が動きを止めた時、そこには巨大な大木が現れていた。
ゴーレムの姿は確認できない。
「なにが起きたんだ?魔法ではない。しかし、だとすればこの現象はなんなのだ。あの魔術師の力なのか?くそっ、分からん!」
「どうやら、間に合ったようですね」
プラムは目を開けると大きく息を吐く。額にはじっとりと汗がにじんでいる。
倒れるように背中を岩肌に預けた。
――ネスター様の指示を破ってしまいましたが、この力の正体に気づかれることはないでしょう。しかし、少しばかり疲れました。これはいったん
プラムは再び目を閉じた。
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