第16話 VS プリズムゴーレム
「先ほどの光は転移魔法のものでしょうか。だとすれば、これは敵の罠。1人だと危険です。はやく皆さんと合流しないと」
プラムは入り組んだ洞窟を彷徨っていた。洞窟内には幾つもの石柱が乱立している。
その柱はただの岩石ではなく、独特の光沢を放つ鉱石のような物が入り混じっている。
ところどころに置かれた松明のわずかな照明を受けて、鉱石は淡く光っていた。
その無数の光源により、本来なら真っ暗なはずの空間はぼんやりとした光に満ちている。
「キミは運が悪い。なぜなら、このゴーレムマスターの領域に足を踏み入れてしまったのだからね」
突然、芝居がかった口調の声が辺りに反響して響き渡る。
「何者ですか?まずは姿を見せたらどうです!」
「同じ魔術師として、お手合わせ願うのも悪くはないがね。残念だがキミには実験台になって貰うよ。私のプリズムゴーレムのね!」
プラムの行く手を塞ぐように魔法陣が浮かび上がり、そこから虹色に光り輝く多面体が現れた。
「そいつは、対魔術師戦に特化した特別製だ。試しに自慢の魔法を打ってみるといい。力比べをしてみようじゃないか」
プリズムゴーレムは浮遊したまま、ゆっくりとプラムの方に近寄って来た。
プラムはすぐさま地形を利用して柱の陰に身を隠す。
「そんな挑発には乗りません。先にそちらの動きを観察させてもらいます」
柱から顔を覗かせ、プラムは用心深くゴーレムの様子を伺った。
「ほう、キミはかなり慎重な性格なのだね。魔術師としては正しい立ち回りだ。しかし、今は1対1であることを忘れていないかね?」
ふと、プリズムゴーレムの動きが止まった。すると次の瞬間、耳障りな甲高い音と共に多面体の頂点から光が収束していく。一筋の光。それは柱を抉り取って、プラムの左肩を射抜いた。
「つっ!」
プラムは声にならない悲鳴を上げて座り込む。
右手で傷口を押さえ、すぐさま回復魔術を使う。
暖かな光がプラムの身体を包み、みるみる傷口が塞がっていく。
息を整えつつ、プラムは思考を巡らせる。
――なんて威力……。まずは攻撃の届かない場所まで行って安全を確保した方がよさそうですね……
プラムは立ち上がり、柱を背にして洞窟の奥へと駆け出した。
「やれやれ、逃げても無駄だというのに」
男の言葉に合わせるようにゴーレムも動き出す。しかし、その動きは不気味なほどにゆっくりとしたものだった。
あまりの遅さに、プラムの足でも容易に振り切れてしまう。
すぐに柱でゴーレムの姿が見えなくなる。それでも先ほどの攻撃は脅威だ。
プラムは後ろを警戒しながら、さらに距離を取るべく走り続けた。
迷路のような洞窟はいくら進んでも出口が見えない。何本もの石柱を遮蔽にしつつがむしゃらに進んだ。すでにゴーレムの位置は分からない。しかし、音がする。遠くから再び先ほどの高い駆動音が反響して聞こえてきた。
――また同じ攻撃を仕掛けるつもりですか?でも、これだけ離れていれば届くはずが……
チラリと後ろを振り返る。石柱に遮られてこちらからはゴーレムの居場所すら察することはできない。軽く息を吐く。
と、走りながら後方確認したのが良くなかったか。プラムはズルリと足を滑らせた。右足を前に出してとっさに踏ん張る。姿勢が崩れ屈みこんでしまう。
瞬間。プラムの耳元を光線が掠めた。光は前方にあった石柱に吸い込まれる。
焼けつくような閃光は柱の真ん中に空洞を残して通り過ぎて行った。
肌の表面が泡立っている。思わず左手を頬に滑らせる。プラムはゴクリと生唾を飲んだ。
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