第14話 瞳の中の強敵

「これでも食らいなっ!」


 構えた槍を囮にライカの回し蹴りがゴーレムの横っ面に炸裂する。

 甲高い金属音と共に火花が散り、ゴーレムの体は高速で後ろへと吹き飛ぶ。背後の岩盤に叩きつけられ、ゴーレムはがっくりとうなだれた。


「へへっ、どんなもんだい。これならさすがに効いただろ!」


 ライカはふんぞり返って大見得を切った。


「ほお、前回の戦闘データにはない破壊力。その義肢の力か。珍しい技術だ。俄然興味が湧いて来たよ。キミを少し甘く見過ぎていたようだね」


 言葉とは裏腹に、その声は落ち着きに満ちている。


「だが物理攻撃である以上、どんな威力でもアイアンゴーレムの前には無力だ」


 その言葉に呼応するように、倒れていたゴーレムはなにごともなかったかのように再び動き出す。

 土埃で汚れているだけで、ライカの一撃が入ったはずの頭部にもほとんど傷がついていない。


「マジかよ。冗談きついって」


 アイアンゴーレムはさらに速度を増してライカの眼前に迫る。繰り出された連打をライカは槍を盾に紙一重で捌いた。さらに再び右脚を振りかぶるが、案の定ゴーレムはいち早く防御態勢に入り打ち込むすきがない。


「ちっ、もう同じ手じゃ触れることもできないってか」


 反撃を諦めた途端、ゴーレムは一気に攻勢に出た。全神経を集中して防御に徹するライカだが、ゴーレムの激しい攻撃は確実に彼女の体力を奪いつつあった。


 ――あんま使いたくはないし、効くかどうかも分からねーが、このままじゃジリ貧だ。もうアレを試してみるしかない


「一か八か、これならどうだっ!」


 ゴーレムの足を狙った渾身の突きは最小限の動きで造作もなくかわされた。しかし、そのまま槍を地面に突き刺したライカはすぐさま斬り上げに転じる。

 槍は引き絞った弓のようにしなり、穂先がゴーレムの顎下に向けて跳ね上がった。

 鋭い斬撃がわずかにゴーレムの目尻を掠める。攻めの姿勢だったゴーレムが一瞬後ろに下がった。


「そこだ!」


 ライカはすかさず捨て身でゴーレムの懐に飛び込んだ。ライカの右脚が硬質な金属の胴体にめり込む。密着状態のままライカはゴーレムもろとも壁に突っ込んだ。

 ライカはゴーレムの四肢を抑え込み、顔をこれでもかと近づけた。


「さあ、アタシの眼を見なっ!」


 ライカの金色の瞳が怪しく輝き、アイアンゴーレムと視線が交差する。

 すると、ゴーレムの動きが突然止まった。


 息も切れ切れに、ライカは立ち上がり1歩2歩と後退る。

 次の瞬間、すっくと立ちあがったゴーレムはあらぬ方向へ向けて動き出していた。まるでなにかと戦っているかのように俊敏に動き回っている。その様子はライカの槍を使った演武に似ていた。

 ライカは大きく息を吐き出す。


「どうやら効いたみたいだね。ふー、あぶないあぶない。やられるかと思ったよ」


 ゴーレムマスターは途端に慌て始めた。


「む?どういうことだ?急に動作がおかしくなった。幻惑系の能力か?くっ、早く分析を!」


 その様子を尻目に、ライカはアイアンゴーレムに向き直る。


「しばらくアタシの幻と遊んでな。でも正直この勝負はアタシの負けだよ。後で絶対リベンジする!まぁ、今は任務が先だし、悪いけど通らせてもらうよ」


 ライカはゴーレムの強さに敬意を表して軽く一礼すると、部屋の出口に向かって走り出した。

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