第12話 VSゼラチナスゴーレム
ネスターは間合いを計りつつ、素早く周囲を観察する。壁が剥き出しの岩石であるところを見ると、今いる場所が炭坑跡のどこかであることは想像がついた。
そして、この場所は非常に狭く、ゼラチナスゴーレムの体躯がやっと収まる程度の広さだった。当然、横をすり抜けることはできないし、ネスターの背後は行き止まりだ。戦って倒すしかこの場を切り抜ける方法はない。
「ふっ!」
ネスターは片手剣を素早く抜き放つと、眼にも止まらない斬撃を繰り出してゼラチナスゴーレムを滅多切りにした。核と思われる中心の赤い球体ごと切り裂かれて、ゲル状の人形は派手に四散した。
「なんだ、大口をたたいた割には大したことない……、ん?」
剣を鞘に納めようとして、ネスターは異変に気が付く。
刀身が侵食され、ボロボロに刃こぼれしていた。
「酸か、これじゃあもう使い物にならないな」
ネスターは溶けた剣をその場に放り投げる。
武器が無くなったのはまずい。ネスターは注意深く今しがた倒した敵の残骸を観察する。
すると、切り捨てたはずのスライムが再び蠢き、体を再構築しようと集まり始めた。
「くっ、再生するのか。核ごと切断したはずだが、しぶといな」
「いやはや、驚いた。まさかスライムコアを切ってしまうとは。だが、表面のグリーンスライムの酸で剣の切れ味が落ちたのだろう。コアの再生力と物理耐性を貫通するまでには至らなかったようだ」
再び通路に響いた男の声にネスターは顔をしかめる。
「お前まだいたのか」
「当然だとも。キミのような類まれな強者との戦闘データは貴重だからね。普通なら、コアに攻撃が届く前に酸で得物を破壊できる。したがって武器で倒すことは不可能なはずなんだが……。キミのような達人が相手では無傷とはいかないらしい。まだまだ改良の余地がありそうだ」
男は1人でペラペラと喋っている。
「口の減らない奴だ。でもまあ、その様子だと核が弱点であることに違いはないようだな。わざわざ教えてくれてありがとう。感謝するよ」
ネスターは腰を落とし、左手に持った鞘を構えた。
すると、鞘を炎のような赤い魔力が包み込んだ。
次の瞬間、復活しかけていたゼラチナスゴーレムの核は真っ二つに両断された。
飛び散った核の破片は、切断面から燃え広がった炎に焼かれて完全に消滅した。
なにかが倒れたような雑音が鳴ったかと思うと、それに続いてゴーレムマスターの焦ったような声が聞こえてきた。
「……そんなばかな。一体どうやって?……そうか、鞘に魔力を纏わせて、酸を防ぐと同時に殺傷力を上げたのか。なんということだ、そんな方法があるなんて」
その声は動揺のせいで震えていたが、どことなく興奮しているようにも聞こえた。
「いや、すばらしい物を見せてくれたね。だが、次はこうはいかない。今のデータをもとにさらに優れたゴーレムを作るのだからね。そして、一つ忠告だ。キミは一先ず窮地を脱した訳だが、キミの仲間が同じように無事だとは思わない事だ。なぜなら、私のゴーレムがキミの仲間達を蹂躙するのだからね!それでは、次に会う時を楽しみにしていたまえ!」
最後にお手本のような高笑いを挟んで、声は聞こえなくなった。
「随分よく喋る奴だったな。しかし、こちらの手の内を分析して個別に対策を立て、転移魔法で分断してから各個撃破か。やられると一番困る戦法だ。1対1で相性の悪い相手をぶつけられたら、苦戦は避けられないだろう」
言葉に出してみて、改めて自分が招いた危機的状況に絶望する。
自分が迂闊に結界を破ったせいで、仲間達を巻き込んでしまった。
ネスターは責任を感じていた。湧き上がってくる不安を拭い去ろうと頭を振る。
「あまり悲観しすぎても良くない。俺の護衛ならそう簡単に負けるはずはない……と思いたいが。……いや、やっぱり心配だな。みんな無事でいてくれよ」
ネスターは仲間達と早く合流しようと、通路の奥に向かって駆け出した。
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