第11話 狡猾な罠
ネスターたちは巨人がひしめく森を抜け、ようやく炭坑跡の入り口までたどり着いていた。
「はあー、息苦しかった!ここまでくれば大丈夫だろ。さすがにこの中にまで巨人はいないよな?」
ライカはホッとした様子で息を吐き、気を紛らわせるように喋り始めた。
「ライカさん、油断はいけませんよ。炭坑跡ですから、中が狭いとも限りません。巨人が隠れている危険はまだあります。それに、ここには魔術結界が施されている。つまり巨人より手強い強力な魔術師がいる可能性が高いです」
プラムは冷静に状況を分析している。そして、彼女の言っている事は概ね正しい。
ライカは露骨にめんどくさそうな顔をした。
「なー、今日はもう結構探索してるし、一旦街に帰らないか?」
「さんせい。ぼくもつかれたー」
ライカの提案にミミも乗っかった。
しかし、ネスターは深刻な表情をしている。
「いや、気絶でエティンの洗脳が解けたんだ。術者は俺たちの存在に気づいたとみたほうがいい。ここで退けば敵に逃げる機会を与えることになる。このまま追い詰めて決着を付けるべきだろう」
「そうですね。私も同じ意見です」
プラムは決意に満ちた表情でネスターの言葉に同意する。
「2人とも、もう少し頑張りましょう。私の力を分けて差し上げますから、どうか」
プラムは回復術を使って、ライカとミミに生命力を分け与えた。
「プラム、ありがとう。げんきになったよ。ぼくがんばる」
「すげぇ、力が漲ってくるぞ。これならまだいける!プラム、ありがとな!」
プラムの献身によって、弱気になっていた2人の戦意が戻って来た。
ネスターは仲間達の心強さを感じつつ、入り口に仕掛けられた魔術結界を調べていた。
どうやら強力な迎撃魔術が仕込まれた結界のようだった。このタイプなら、外側から強い魔力をぶつけて結界そのものを破壊すれば無力化できる。ネスターは早速結界を強引に突破しようとした。
すると、突然ネスターたちの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「しまった、この結界はトラップか!」
気づいた時にはすでに遅く、ネスターたちは立ち上る光に包まれていった。
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しばらくしてネスターが目を開けると、そこは暗い通路のような場所だった。
辺りを見回しても、仲間達の姿が見当たらない。自分だけさっきとは違う場所に飛ばされたらしい。
「これは転移魔法か」
「ご名答」
辺りに聞き慣れない男の声が響き渡る。
「誰だ、お前は?」
ネスターの問いに、謎の声は間髪入れずに答える。
「失礼。挨拶が遅れたね。そうだな。ゴーレムマスター、とでも名乗ろうか。この炭坑跡の管理を任されている者だ」
「お前がここのボスか。隠れていないで出てこい」
男は笑いを堪える様にくぐもった声を出して、早口で捲し立てる。
「くくっ、そんな非効率的な事をするわけがないだろう。先ほどの巨人との戦いは見させてもらった。いやあ、大した戦闘力じゃないか。さぞかし名のある冒険者なのだろう。だが、すでに分析は完了した。もうキミたちの力では私には勝てないよ」
すると、正面の床に先ほどと同じ魔法陣が浮かび上がり、そこから巨大な緑色の物体が姿を現した。
「キミの相手はそのゼラチナスゴーレムだ。高い物理耐性を誇る私の傑作の一つだよ。特に斬撃に対する抵抗力には目を見張るものがある。剣士であるキミだけでは倒せまい。まあ、精々あがいてみたまえ」
ブヨブヨとした粘着質の物質が赤く刺々しい形の鉱物のような核を中心に寄り集まり、エティンにも引けを取らない程巨大な人型へと姿を変えた。
「大した自信だな。お手並み拝見と行こうか」
ネスターはそう言って、剣の柄に手をかけた。
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