第4話 赤竜の牙
「食事中に申し訳ない。『赤竜の牙』のメイナードと話がしたいんだが、構わないだろうか?」
4人の冒険者たちの視線が一斉にネスターに集まる。盛り上がっていた空気が一瞬で凍りつく。
冒険者たちの中で最も体格のいい壮年の男が無言で立ち上がろうとした瞬間、魔法使いらしき風体の女が口を開いた。
「なにコイツ。メイナードの知り合い?」
腰を上げかけた男が立ち上がるのをやめて、それに答える。
「いいや。こんな非常識な奴はしらん」
続けて、奥の席に座っている少女が食事の手を止めずに提案する。
「リーダーが知らないなら、話聞かなくてもいいんじゃないの?」
最後に、細身の優男が立ち上がりながら軽口を叩いた。
「まあまあ、みんな怖い顔しないの。ここはボクに任せておいてよ。丸く収めるからさ」
金色の髪を撫でつけて、青年はネスターの前に立った。
「はじめまして。ボクはフィンレー。キミ、どこのパーティーだい?あと、名前は?」
「俺は『黒の
フィンレーはわざとらしく首をひねった。
「『黒の鉄槌』、聞いたことないな。悪いけどボクたちは付き合う相手は選ぶようにしてるんだ。志が高いのは結構だけど、無名のパーティーと話すことはないんだよね。そういうわけだから、情報集めなら他を当たってよ」
手をヒラヒラと振るフィンレーの眼には軽蔑の色が見え隠れしている。
ネスターはそれでも、真剣な表情で追いすがった。
「悪いがそうもいかない。俺たちは急いでいるんだ。一刻も早く魔王軍を倒したい。お前たちは情報を持っているのにまだ倒せていないんだろう?なら宝の持ち腐れだ。俺に教えてくれれば、すぐにでも片がつく。その方が、この国のためになる。頼むから協力して欲しい」
ネスターがなにげなく放った言葉は明らかに挑発的な内容だった。
フィンレーは目を細めた。案の定、額には青筋を立てている。
「なに、キミ。ケンカ売ってんの?」
言うが早いか、フィンレーはネスターの胸倉を掴もうとした。
しかし、それよりも速く、フィンレーを制するように太い腕が2人の間に割り込まれた。
「メイナード?なんで止めるんだよ!」
フィンレーはさっきまでの柔らかい物腰はどこへやら、怒りを露わにしている。
メイナードはフィンレーの腕を掴みながらも、落ち着いた調子で諭す。
「オマエの気持ちは分かる。だが、ここは宿の食堂だ。女将さんに迷惑をかけるわけにはいかん。ここからは、リーダーであるオレが話をつけよう」
軽い舌打ちと共に腕を振りほどいて、フィンレーは元の席に腰を下ろした。
「ネスターと言ったか。オレの仲間が手を上げようとしたことは謝ろう。だが、アンタはオレのパーティーを侮辱した。その落とし前は別の形でつけさせてもらいたい」
メイナードは努めて冷静にネスターと向き合った。
しかし、ネスターは悪びれずに反論した。
「侮辱したつもりはない。俺は事実を言ったまでだ。なんどでも言うが、魔王軍を倒す実力のないパーティーが情報を持っていても意味がない。それだけの話だ」
ガタンと背後で音がした。プラムが思わず割って入ろうと、席を立った音だ。それを見越していたかのように、ライカがプラムを引き留めた。
「ライカさん、なぜ止めるのですか。あれでは、交渉になっていません」
プラムの手を掴んだまま、ライカが小声で耳打ちする。
「命令聞いてなかったのか?手を出すなって言ってたろ。それに心配しなくても、ネスター様が人間相手に危なくなることはないって」
そんなやりとりをよそに、メイナードは壮絶な表情でネスターを睨みつけていた。
握りしめている大きな拳は怒りで若干震えている。
「それが侮辱だと言っているのが分からんか。強さを証明するには戦って勝つしか方法はない。力比べもせずにここまで好き勝手言われては黙っておれん。ネスター、オレと勝負しろ。負けたらパーティーを解散して、この街から出て行ってもらう」
ネスターは堂々と応じた。
「望むところだ。その代わり、お前が負けたら魔王軍の情報を渡してくれ」
ネスターの答えを聞いて、メイナードは一瞬怪しげな笑みを浮かべた。
「いいとも。決闘は明朝だ。訓練所で待っている。逃げることは許さんぞ」
「もちろん。逃げ出す理由がないからな。そっちこそ、情報整理をしておくことをおすすめするよ」
メイナードはフンと鼻を鳴らして、席に戻っていく。
「心配には及ばん。負けるのはオマエだからな」
「そうか。まあ、楽しみにしているよ」
ネスターは手を振って踵を返した。
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