第3話 冒険者の街ガルタ
とっぷりと陽が落ちたとある宿屋の入り口にて。若女将がネスターたちの姿を目ざとく見つけて笑いかけてきた。
「おかえりなさい、ネスターさん。夕飯のご用意できていますけれど、すぐ食べますか?」
ネスターは若女将に釣られて笑顔を返した。
「ありがとう。もらおうか」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
若女将はネスターたちを先導し、食堂の方へ案内する。
「はぁー、疲れた!今日も収穫なしかよー」
ライカが荷袋をどっかりと床におろしながら、声を上げる。
「まぁまぁ、お食事をいただいて明日に備えましょう。今日のメインはステーキらしいですよ」
プラムは大事そうに抱えている、水晶のついた杖をテーブルに立てかけた。
「お肉!はやくたべたい」
ミミはすでに席について、待ちきれないといったようすで椅子を揺らしている。
「お待たせしました。どうぞお召し上がりください」
若女将がテキパキと料理を配膳していく。
「女将さん、ありがとう。では、いただきます」
ネスターの挨拶に合わせて3人の唱和が食堂に響く。
出立前にネスターが語った約束事。『人間に魔族だと悟られない』ために、4人はすっかり冒険者パーティとしての振る舞いを会得していた。
周囲に違和感を与えることなく、4人は今日も無事夕食を楽しむのだった。
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ネスターたちは偽魔王軍の被害が出ているという冒険者の街ガルタにまず足を向けた。そして、現地に着いてからすでに数日が経っていた。手始めに宿屋を拠点として、聞き込みを始めていたが成果は思うように上がっていない。
街に来たばかりの旅人が声をかけても取り合ってくれる人自体が少ないというのもある。
しかしそれ以上に、街で生活する一般人はそもそも魔王軍の話をあまり知らないようだった。
たまに知っている人がいても、聞けるのはせいぜい魔王軍の悪事に関する噂程度。居場所に繋がるような話には一向に巡り合えていない。ネスターは次の手段を考える必要に迫られていた。
「やはり、明日からは冒険者に聞いて回ったほうがいいかもしれないな」
追加で注文したエールを飲みながら、ネスターがポツリとつぶやく。
「えー?それ本気かよ!?冒険者の連中、全然話聞いてくれなかったじゃん」
ネスターの言葉に渋い顔をしたのはライカだ。
実際、初日に冒険者たちに聞き込みをした結果は散々であった。
その理由は簡単だ。
自分たちの仕事に関わる情報をよそ者に話すメリットがないからである。多くの冒険者に嫌そうに対応された事がライカは面白くなかった。
「それでも魔王軍の情報に最も近いのは冒険者だ。なんとか彼らから話を聞き出さないと埒が明かない」
そう言いながらも、ネスターの表情は暗い。なんらかの繋がりを作らないことにはまともに話をするのも難しいことを理解しているからだ。
大義のためと割り切り、正攻法以外のやり方も使うべきではないか。そんなことを考え始めていると。
「あら、ネスターさんたちも魔王軍を倒そうとしているんですか?」
重い雰囲気の中会話に割って入ってきたのは、若女将だった。
プラムがすかさずその言葉に反応する。
「ええ、そんなところです。それより、女将さんは魔王軍の話をご存じなのですか?」
「いえ、私は噂を小耳にはさんだことがあるだけです。本当に詳しいのは、ウチに泊まっているメイナードさんたちですね」
プラムは小首をかしげた。
「メイナードさん、ですか」
「あ、みなさんはこの街に来たばかりだからご存じないんですね。ガルタでも有数の冒険者パーティー『赤竜の牙』のリーダーさんです。ちょうど、向こうの席にいらっしゃいますよ」
女将さんが目線で示した先には、4人の冒険者たちが集まって談笑している。
ネスターはすぐさま立ち上がった。
「女将さん、ありがとうございます。同じ志を持つ冒険者に会いたかったんですよ」
女将さんとのやり取りもそこそこに、ネスターは冒険者たちのいる席に向かおうとした。
「ネスターさ……、ネスター。今連中に話しかけに行くのかよ。ならアタシたちもついていった方がいいか?」
ライカが嫌々といった表情で進言する。
「いや、話を聞くだけだから俺1人で十分だ。それに、あまり褒められた方法ではないが。ちょっと試したいことがある。これは俺の独断。手出しは無用だ。気にせず待っていてくれ」
意味深な指示を残し、ネスターは単独で『赤竜の牙』の下へ歩いていった。
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