第9話 サイトウ、アレを調べられる

「あああ、貴女ねっ/// そういうことはもっと早く言いなさいよ……っ/// 」


「うう、申し訳ない」


 悪意はなかったとはいえ、今はもう完全に女の子同士だと思っていたヒメカを騙すような形になってしまったことには間違いないので素直に謝っておく。


「まあ、その……。 言い出すタイミングがなかったってことはヒメカにも分かるから……もういいわよ。 それに、そういう事情なら下着を買うのはZAKUZAKUよりいい店があるって前に聞いたことがあるの」


「いい店? 」


 一先ず、見繕ったものの中から一週間ローテーションできるくらいの服を購入しZAKUZAKUを後にした俺たちは。


 そのまま駅の改札口へと向かい電車に乗り込んだ。


「それで、これからどこに行くんだ? 」


「行先はここよ」


 ヒメカが差し出してきたスマホの画面に目をやると、そこにはロイヤルドラゴンランジェリーと書かれていた。


「ロイヤル……? 何だこれ? 」


「簡単にいうと、ここは貴女と同じようなカラダの特徴を持った竜人族向けのランジェリーショップよ」


「同じって……つまりそういう? 」


「ええ、両性具有。 ふたなりってことね」


「ふた!? 」


「といっても。 ふたなりは竜人族の中でもかなり珍しくて、それこそ昔は力ある王族の象徴だったらしいから。 ロイヤルってつくのもそこからきてるみたいね」


「な、なるほどな~」


 いくらこの車両がガラガラとはいえ。


 ヒメカの口からふたなりという言葉が飛び出ると少しドキリとしてしまう。


(っていっても。 ふ、ふたなりは体の特徴だしな。 やましい事はなにもないぞっ)


「ん……この駅ね。 降りるわよ」


「お、おうっ」






 新東都、西エリア六番街。


 この辺りも大昔は違う呼び名だったらしいが。


 ダンジョンが出現し、ジョブという能力が人々に発現した世界の変革期に大規模な区画整理があり今の名前に落ち着いたらしい。


「ロイヤルドラゴンランジェリー、エリザヴェリチェ。 どうやら、ここみたいね」


「おー。 なんというか……随分高そうな店だな」


「サイトに載ってた価格通りなら、サイトウちゃんのお財布も耐えてくれるはずよ」


 ふたなり用とはいえ、ここから先は女物の下着を扱う専門店。


 元おっさんの俺にはどうにも居心地が悪く、ヒメカの陰に隠れるようにしながら店内に入ると。


 銀フレームのメガネが似合う、高身長の女性店員が此方に近づいてきた。


「エリザヴェリチェにようこそ、何かお探しですか? 」


「あっ、えっと。 今日はこの娘の下着を探しに来たんですけど……」


「ど、どうも……っ」


「失礼ですが……。 見たところ、そちらのレディは竜人族ではないようですが」


「あー゛いや、それが~あの~。 どういうわけかオ、わた、私も、その、ついてしまって……いや、もともとついてたんですけど……」


「ふむ……。 少し、いいですか? 」


「はへっ? 」


 突然、店員さんの美人な顔が目の前にきて思わず後ずさってしまう。


「駄目。 私から目を逸らさないで」


「ひゃっ、ひゃい……! ///」


 時間にすれば数秒の出来事。


 店員さんと見つめ合っている途中、彼女の瞳が黄金に輝いた気がした。


「……どうやら、嘘ではないようですね。 大変失礼いたしました」


「今のは……? 」


「私のスキルです。 勝手ながら、少しだけ。 お客様のカラダを調べさせてもらいました」


「ふーん。 今の、鑑定系のスキルってわけね」


「ええ。 この店は、オーナーであるエリザお嬢様の意向で基本的に竜人族のお客様以外のご利用はお断りしているので……」


「えっ、そうだったの…! ごめんなさいっ。 ヒメカたち、知らなくて…っ」


「ふふっ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。 そちらのレディのカラダの事情を伝えれば、きっとお嬢様も納得してくれる筈ですから」


「よ、よかった~」


「まあ、もしかすると。 ……に巻き込まれるかもしれませんが……」


「えっ? 」


「ああすみません。 それでは、今お客様の”サイズ”に合いそうな下着を幾つかここに持ってきますね」


「あっ、はい…お願いします」


「では、少々お待ちください」


「……」


「……ねぇ、サイトウちゃん」


「な、なんだよ……」


「あの店員さん、あなたのカラダを調べたって言ってたけど……」


「おう……」


「ちゃっかり、アレのサイズも調べたって事よね? 」


「へっ……? 」


「だって、下着を取りに行ったし……そういうことでしょ」


「な、なななっ/// う、ウソだ~~~~~~っ! ///」

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