第7話 サイトウ、推しになる

「なかなか似合ってるわよ、サイトウちゃん」


「うう、なんで俺が……」


 ヒメカのいうとおり、サイズが違い過ぎる男物の服では外出もままならないので。


 恥ずかしさを押し殺し、マジスタ☆ダンジョンライフのキャンペーンアイテムであるローブを装備して出かけることになった。


(くぅぅ、俺自身がマジカルスターフェアリーのファンだったらもっと堂々としていられたんだろうが……こういうのは通ってこなかったからな)


 いわゆる日朝文化というのは俺がガキの頃にもあったのだが。


 俺がテレビにかじりついて夢中になって見ていたのは巨大ロボが登場するスーパー戦士冒険者とよばれるジャンルで、時間帯的にはマジスタ☆のような女の子向けの番組が終わってから放送されていた。


(そういば親に、巨大ロボのおもちゃを買ってくれってねだってたっけな)


 なんだかな懐かしいなと、ヒメカの隣を歩きながら思い出に浸っていると。


 母親に手を引かれ前から歩いてきた小さな女の子が俺を見るなり、母親の手から抜け出しこちらに駆けてきた。


「ママ! みてみて、レイちゃんっ、レイちゃんがいるっ」


「ぬぉぉ、ローブを引っぱらないでくれ~」


「ご、ごめんなさいっ、ウチの子がご迷惑を……! ほら、ユメちゃん。 急に服をひっぱったりしちゃメっでしょっ」


「うう、ごめんなしゃい」


「いやいや、そんな! ちょっと驚いただけだけなんで……キミ、レイちゃんが好きなの? 」


 慌てて駆けてきた母親に叱られ、しょんぼり俯いてしまった女の子を元気づけようと。


 ローブにプリントされたレイちゃんの写真を広げて質問すると。


 女の子はぱっと顔を明るくし、


「うんっ! シルバースターが一番すきっ」


 と満面の笑みで答えた。


「そっかそっか、なら飛びついちゃうのも仕方ないな。 でも、いきなり走り出して転んだりしたら危ないし。 知らない人の中にはコワーイ大人がいるかもしれないから、気をつけなきゃダメだぞ? 」


「うんっ、気のつける! 」


「ふふっ、優しいお姉さんでよかったねユメちゃん。 この子、マジカルスターフェアリーの大ファンで、なかでもシルバースターのレイちゃんが大好きなんで……興奮しちゃったんだと思うんです」


「おねーちゃんも、レイちゃんが好きっ! なんだよねっ? 」


「え゛っ」


 大きな瞳をキラキラさせながら女の子にそう尋ねられ。


 予想外の質問に、思わず変な声が漏れてしまった。


「もしかして、ちがう……の? 」


(くそぅ、この子の顔を曇らせるわけにはいかんだろぉ……俺! )


「あ~゛いや、好きだぞ! うん、レイちゃんが好きだ」


「えへへっ、ユメとおなじだねっ」


「だなっ」


「これからも、いっしょにレイちゃんを応援しよーねっ」


「おうっ! 」


「じゃーねっ! おねーちゃん! ピンクのおねーさんも! 」


「ああ、じゃーな! 」


 バイバイと手を振って、交差点の角を曲がっていく親子を見送る。


「よし……じゃあ、行くか」


「そうね、レイちゃん推しのサイトウちゃん」


「うぐっ!? 」


「ぷぷっ、最初はそのローブを着るのにあんな恥ずかしがってたのにっ。 レイちゃんが好きだ―、だって」


「し、仕方ないだろっ。 あんなキラキラした目で見つめられちゃ」


「まあそうね。 でも、貴女って意外と子供にやさしいわよね」


「意外は余計だ、意外は」


「ふふっ」


「なんだよ、まだおっさんをからかうつもりか~?? 」


「いいえ。 ほら、着いたわよ」


「お? 」


 ヒメカにからかわれているうちに、ZAKUZAKUの服屋が入っている駅ビルに到着したようだ。

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