第4話 サイトウ、連絡先を交換する

 腕と膝を組んでこちらを見据える少女の対面に着席する。


 どうやら彼女とは部屋がお隣らしく。


 俺がジョブチェンジの石を使い、全身が焼かれるように熱くなって叫んでいたのを聞きつけ何事かと訪ねてきたらしい。


「それでだな、事の始まりは……」


 年でいえば彼女と俺は一回り以上離れているのに。


 何故か親に叱られた子供のように縮こまりながら、さっき程起きた悲劇。


 おっさん美少女化事件について話していった。






「ふ~ん。 つまり、貴女が万年D級冒険者のサイトウっておっさんで。 ジョブチェンジの石を使ったらそんな姿になっちゃったって言いたいのね」


「そ、その通りだぜ」


「まあ……本人しか解除できない冒険者パスのロックも目の前で外してもらったし。 今の話は信じるわよ」


「し、信じてくれるのか……! 自分でいうのもなんだが、こんなトンデモ話をっ」


「トンデモっていっても。 冒険者の中には、ジョブチェンジで全身金属みたいになっちゃった男とか。 行方不明のまま100年以上経ってダンジョンから戻ってきた女とかがいるわけだし。 おっさんが美少女になったって不思議じゃないわよ」


「そう言われてみれば……確かにそう、なのか? 」


「それより、サイトウちゃん。 貴女、ポツったーやってる? 」


「サイトウちゃんだとぉ!? 」


「今の貴女はどこからどう見てもサイトウちゃんでしょ、それでやってるの? やってないのっ? 」


 男ではなくなったという事実を改めて突きつけられたことで精神的ダメージを受けながら、5世代前のスマホを取り出す。


「んーいや、前にダウンロードしただけでやってはいないな……」


 ポツったーは、その日に起きた出来事などを気軽に呟けるSNSで。


 今どきの若い子たちはポツったーのプライベートメッセージ機能、通称プラメで交流しているらしい。


「はぁっ!? ウソでしょ……というかスマホ古!? 」


「古くて悪かったな、こちとら金がないんじゃいっ」


「ああもうっ。 それじゃあ、今は普通に電話番号とかでいいから連絡先を交換しましょう? 今どきポツったーやってない冒険者とかありえないんだから、後で始めなさいよね」


「お、おう……連絡先な……連絡先? 」


「なにキョトンとしてるのよ? 貴女、いきなりそんな姿になって困ってるんでしょ。 一先ず、私が力を貸してあげるっていってるの、感謝しなさいよねっ」


「そいつはありがたいが、いや……でも」


「でもなに? 」


「俺とアンタは今さっき会ったばかりだろ……? どうして俺を助けてくれるんだ? 」


「はぁ……やっぱり、覚えていないんだ」


「え? 」


「ううん、今はそんなことどーでもいいわっ。 とにかく、大事なのは私がおっさんに借りがあって。 その借りを返すため今こうして貴女に手を差し伸べているの」


「俺に借り……? 」


「それで、どうするの? 私の助け、いる? いらない? 」


「いりますいりますっ! よろしくお願いしますっ、何卒ぉ~! 」


「よろしい。 それじゃあ、さっきの続き。 連絡先を交換するわよ」


「おっす」


「ああそれと」


「……? 」


「私は、ヒメカ。 アンタじゃなくて、ヒメカって呼ぶことっ。 いいわねっ? 」


 ピロン、とスマホから電子音が鳴り。


 電話番号を含め、諸々の連絡先が無事交換された。


「はい、これでよしっと。 それじゃあ、今日はもう遅いから私は部屋に戻るけど……。 明日からのことは、後でメールしとくからちゃんと確認しときなさいよっ」


「はっ! 了解であります! 」


「もうっ、調子いいんだから。 それじゃあ、おやすみなさい」


「ああ、おやすみヒメカ」

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