第3話 サイトウ、押し入られる

 誰かは知らぬが、このままホテルの廊下で叫ばせているわけにもいかない。


(ご近所迷惑になる前に開けてやらねば)


 気を取り直し。


 ドアまで向かおうとした足を慌ててストップさせる。


「まてまてまて……! 」


(流石にこの格好で外に出ちゃマズいよな!? )


 上半身はぶかぶかのシャツで覆っているからまあいいとして、問題は下半身。


 この美少女ボディに変身しても、何故かついたままでいる股間の相棒もとい。


 おっさんだった名残は何が何でも隠しておかなくては。


(こんなところで社会的に死ぬわけにはいかぬのだ……! )


 とはいえ、シャツと同じく今のカラダのサイズに合った服は持ち合わせていないので。


 ビックサイズな男物のズボンをどうにかこうにかベルトで固定し、ズルズルと床に引き摺りながら玄関に向かう。


「ちょっと~!! 」


「はいはーい! 今開けるぜ! 」


 ガチャリ、と。


 二重のロックを手早く解除しドアを押し開けば。


 扉を開けた先にはピンク色の髪をした見知らぬ美少女が立っていた。


「おっそーーーーい! まったく、このヒメカを待たせるなんて……え゛っ」


「ぬ? 」


「あ、ああ貴女だれよ!? というか、その服……あのおっさんに何かされたの!? 」


「なっ、ちが! おっさんは何もしてない、無実だぞ……! 」


「無実って……こんな可愛い子を部屋に連れ込んどいて無実なわけないじゃないっ。 いいから、おっさんを呼んできて」


「あ~゛いや、だからそれは誤解で……」


「誤解……? ああもうっ、ここじゃ埒が明かないわ! ちょっと部屋に入らせてもらうわねっ」


「ええっ!? ちょ、まっ!? 」


 突然やってきた少女に押し切られる形で、部屋への侵入を許してしまった。


「邪魔するわよ」


「お、おおどうぞ……」


 後ろ姿からして既に、私怒ってますといった雰囲気の少女は。


 ずかずかと部屋の奥まで足を運ぶと、開けっ放しな窓に気付き「やっぱりね」と呟いた。


「あのおっさん、この窓から逃げたのね……! ちっ、一足遅かったか」


「はあ!? ちがうちがうちがう! ここ十一階だぞ!? そんな窓から逃げれるわけないだろ!? 」


「いえ、あのおっさんならやりかねないわっ」


「アンタおっさんの何を知ってるんだよ……! 」


「そういう貴女こそ、どうしてそこまでおっさんを庇うわけ? 何か弱みでも握られてるの……? 」


「だーもうっ! 違うって、こんな話信じられないかもしれないけど。 アンタが探してるおっさんが、俺なんだよっ! 」


「ウソでしょ? 」


「ほ、ほんとなんだって~!! 」


「……」


 じーっと、こちらの心を見透かすように。


 真っすぐな視線を向けてきた少女は「まあいいわ」と鼻を慣らし備え付けの椅子に腰かけた。


「それで、どういうことか詳しく説明してくれるっ? 」

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