起死回生

 『なんだって?勇殿がいない?』


朝起きたラシエルが部下から報告を受け

様子を見に行く

エリカはその声に目を覚ます

エリカは昨晩、勇が出ていく姿を

目撃していた


 『結局逃げ出したのね

 ふん、逃げるくらいなら最初から来んなっての』


ブツブツいいながら再度眠りにつこうとするも

勇が逃げたと思うとイライラして目が覚めてしまった


 『あ〜もう!!!目が覚めた!!』


エリカが起きて部屋から出た所に

ラシエルが戻ってきた

エリカを見つけたラシエルが


 『おはよう、エリカ

 ちょっとまずい事になってな

 実は勇殿が今朝起きるとだな』


とそこまで言いかけるとエリカが


 『逃げ出したんでしょ・・・

 昨晩見ましたよ』


エリカはため息ついてラシエルに答える


 『知っていたのか・・・

 どうして止めなかったんだ

 勇者様とはいえ夜中に1人って

 危険が伴うだろう・・・』


ラシエルはエリカが

勇を止めなかった事を

咎めようと思った

しかし勇が逃げた事は決して悪い事ではないと

思ってもいた

なので勇を止めなかった

エリカを責めるのはお門違いだと思い

それ以上エリカには何も言わなかった


ラシエルは勇の心配と

これからどうするかと考えていた


そんなラシエルの姿を見てエリカは


 『ってか逃げ出した時点で勇者じゃないですけどね

 あんな奴どうなってもいいじゃないですか・・・』


語尾が弱くなりエリカ

姫様が来れなくて代わりに来た少女が

現在の状況を打破してくれるような人物でないと

わかった途端

苛立ちや焦りを勇にぶつけてしまっていたかも

しれないと心の奥底では思っていた

自身の無力さを感じて

ただ八つ当たりしていたのかもしれない

そんな事を考えていると


 『別に逃げ出したりしてませんけど?』


そう言って勇が袋を抱えながら

宿舎の扉を開けて中に入ってきた

エリカは勇が戻ってきた事に

少し安堵した様子だった


 『なんで戻ってきたのよ』


勇はキョトンとして


 『さっきも言ったけど別に逃げ出してないって〜

 ちょっと練習してただけ』


勇は袋を床に置き肩をクルクル回す


 『勇殿、いや、すまない

 てっきり・・・

 そんな事よりその袋・・・

 いや練習とは?』


ラシエルは少し汗ばんでいる勇の姿を見て

何をしていたのだろうかと疑問に思った


 『アンデットでも狩っていたのですか?』


ラシエルの疑問に勇は


 『説明させてもらいたいのですが〜

 う〜んと・・・

 論より証拠ですね、ちょっと行きましょう』


そう言って外を指差しラシエルを外に連れていく

エリカも後をついていく

拠点の本部を出てレミス村の方へ歩いていく

ラシエルは本部を出る時に

騎士団数名、魔術師団数名に声をかけ

護衛として同行させた

勇はリッチの範囲魔法にかからないように

少し離れリッチが直線的に見える場所に

袋を下ろして止まった

アンデットによる攻撃はなかった

恐らく指示はリッチが出しているのだろう


リッチは強力な腐食の範囲魔法を使いながら

ほんの少しずつ前進している

目的は何なのかは分からない

このまま王都まで行くつもりなのか

周辺を全て腐らせて支配地にするのか

ただの気まぐれなのか・・・


勇はリッチを見て

 

 『やっぱりお金持ちには見えないなぁ〜』


とボソっと呟き

先ほどまで持っていた袋の中から

何かを掴んで出した

そして野球のピッチャーのように

大きく振りかぶって


何かを投げた!!


一筋の影が土煙を上げ

リッチに向かって飛んでいき

頭に当たり吹っ飛ばす

その場にいた全員がリッチに

ダメージを与えた事に驚く


 『な・・・何?何?今何か当たった???』


勇が更に袋に手を入れて取り出し

片手で握りその場にいた全員に

自信満々の笑みと共に見せた


 『じゃじゃーん!!』


勇が手に持っていた物は鉱石だった

全員が石?と疑問を持った

魔法や大型の矢でも無理だったのに

石なんて・・・まさか?という感じである

エリカが勇の持つ石に近づいてじっと見る


 『これは鉱石?

 私たちが拠点作りに掘り起こした時に

 出てきた物・・・?』


勇は昨晩なるべく硬い石を探して

歩いていた時に掘り起こした時に

ためられていた石や砂の中から

ソフトボールくらいの大きさの鉱石を

たくさん見つけたのだった

勇は胸をはって


 『えっへん!これが一番硬かったのだよ

 大変だったんだよ〜硬いの探すの

 それから投げる練習をしてたら

 夜が明けたので今に至ります

 私野球の経験なんてないから

 投げて当たらないと意味ないもんね、アハハ』


驚愕するそこにいる全ての人達

開いた口が塞がらない


 『えっ!!!!え〜〜〜〜〜っ!!!!!』


ただただ驚きの声しかない

勇は大きく振りかぶって


 『もういっちょ〜〜〜!!』


シュンという風切り音と共に

鉱石が高速で飛んでいき

その後から土煙があがる

今度はリッチのボディに激突

体をくの字に曲げるリッチ

あちらも何が起きているのか

できていない様子

エリカは驚いた顔で勇を見て

ダメージを受けてるリッチを見て

また勇を見る


 『うそ・・・だって同じ事を

 私たちだって・・・

 なんでしかもただの石って・・・ 

 アハ・・・ハハハ・・・どうなってんの?』


勇はエリカをチラッと見て

更に振りかぶって投げる


 『昨日ね〜矢が腐っていくのを見たんだよ

 その時に腐食は矢の周りから始まって

 最後は全てなくなる、腐るっていうのかな?

 という事は腐ってなくなる前にあれに当てれば

 って思ったんだよ!

 なのでかた〜い石を探し

 なるべく丈夫なのを探してたら

 これに行き着いたんだよ』


エリカはきょとんとしている


 『それは・・・わかるけど

 それを実行できずに困ってた訳で・・・』


勇の投げた鉱石も

もちろん腐食していく

しかし完全になくなる前に

リッチに届いてダメージを与える

そう、腐食より早いスピードで投げれば

いいのだった

もちろんこんな事ができるのは勇だけだが・・・


勇の持っていた袋の中の鉱石が

残りわずかとなっていた

それを見たエリカが

自分の顔を両手で叩き


 『みんな!!

 とりあえずこれくらいの石だ!

 石、鉱石ならなおよし

 拠点作った時に掘り返した土の山が

 あったでしょ!

 そこから持ってきて勇に渡して!!

 他の者にも声かけて!!

 全員っ!!はしれ〜〜〜〜!!』


おお〜という掛け声と共に

その場の全員が石を探しに行く

エリカが先導を切った事を見た

ラシエルが嬉しそうな顔をする


起死回生

絶望からの脱却

勇者が現れた


ずっと重かった空気が徐々に軽くなる



続く

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