星の数だけあるは嘘(2)
五階建てのセキュリティの効いたマンションがドーンと私の前に現れる。ここに来るのは二度目だ。
こんな所に女子高生が一人暮らししているなんて思いもしない。
「刹那?」
正門さんと会うまでは。
「いや、行こう」
「うん」
オートロックの扉を抜けて2枚目の扉が開く。
エレベーターの扉も開いて、家の扉も開いたら、合計4枚の扉が開いたことになるし、往復したら8枚だ。なんて緊張しているやつの頭はこんなふうになっている。
207号室の前で扉が開いて、花の香りがふわふわしてくる。
今日の花の色は白だ。この前の花は枯れてしまったのかな。
「早く上がってくれないかな…。多分人が来たら邪魔になるし」
「はっ、と。お邪魔します」
「はぁい、どーぞ」
と同時に手を引っ張られて部屋の中に引き込まれ、シンクの前に連れて来られ、「手、洗って」と言いながら私の手を掴んでくる。
「いやいやいや、これ、前回もやったけど…」
「やったね」
「だから自分で出来るからさ」
半ば振り払うようにして、自分の両手を合わせてシャカシャカと洗っていく。
「あー…」
たかが私の手を洗えなかったくらいで正門さんは残念そうだ。
「んー…うーん…うう」
小さな唸り声を上げながら自分の手を洗う正門さんは少しだけ可愛くみえる。
私より背も高いけど、こう、小動物みたいな?ハリネズミ…みたいな。さすがに小さすぎか。猿?は違うな。なんか思ったよりどれにも当てはまらないな。
いくら考えても正門さんは正門さんだと腑に落ちる。
千鳥足とまでは行かないが、フラフラとソファに身を投げる正門さんに習って私もぼすんと座る。
それはもう怠そうにネクタイを外しては、それを軽やかにその辺に投げて、襟のボタンを2つほど空け、大体いつもこんな感じなのか、自然な流れでスカートからブラウスを出して解放的になる。正門さんが。
私は人の家ではそんなことしない。
「刹那もラクにしていいよ?」
うん、そんなことしない。
「うん、ラクにしてる」
「そんなに背筋を張って言うもん?」
「言わないかも」
身体の力を少し抜いて背もたれに寄りかかると、ふわふわに包まれて、空気に混じった正門さんの匂いがする。
玄関のとのはまた違った匂いだ。私の隣を歩く正門さんの香りがして、正門さんに抱き締められているような。いや、それは違う。
正門さんの距離感がおかしすぎるから頭がバグる。
そもそも女同士でそんな事されても、至って普通だろ。何を否定しているのか。
「今日の刹那はなんか固いね」
「そんなことはない」
「そんなことがあります」
「ない」
「あーる。だから、もっとこっちおいで」
ひょいひょいと手招きされる。まねきねことは程遠いぐらいの手招きだ。何故こんなにも正門さんの言うことを聞いてしまうのか自分が知りたい。
身体が勝手に動く。正門さんの隣に密着する。
さっきよりも正門さんの匂いが濃くなってくる。なんの匂いなんだろうか?形容し難いが良い匂いってことはわかる。
女の子に良い匂いと感じる事ってどうなんだろうか?変態なのか?普通なのか?こんな事もわからないのは人付き合いが少ないせいにしていいだろうか。
私の太ももと、正門さんの太ももがくっついてる。スカートから覗いてる脚は素肌だから、直に正門さんの温もりが伝わってきて、私の温もりも伝えてしまっていると思う。
「どこ見てんの?」
「どこも見てない、特には」
「うっそ。私の足見てた」
「見てない。自分の足見てただけ」
「自分の足見てたなら、私の足も一緒に見てたワケだ。視界に入るだろうし」
そうだそうだ。こういう奴だ。正門千星は。
人の揚げ足取って楽しんでる性格の曲がった奴。
「みて、ない、し」
「わかりやすぅ」
ぷぷぷと笑っている。ニヤニヤしてる。私の完全敗北である。
「この、性悪女め」
「おお、言うようになってきたね〜。ってか、ふつーに性悪女は結構悪口だよ」
そう言いつつも正門さんは笑っていて、その笑いに釣られてしまい、私も同じように笑ってしまう。
なんだ、笑えるほど楽しいじゃないか。
この前の件が私の中で納得いかなかったけど、それも今日で帳消しになった。第一友達を使って人を追い払う道具にするのが間違っている。この考え方は譲らない。
自分は素直になれないことがほとんどだけれど、今こうして正門さんとちゃんと友達という関係が築けている。
近いのは女同士だからよくある事。と思いたい。
結局私達は勉強なんて1ミリもしなかった。
私達は痛がりたい。 城田 @identity15
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