星の数だけあるは嘘(1)




今日は華の金曜日。略して華金。

学生にとっては1週間の労働の終わりを感じさせる日だ。

勉学は労働では無いんだろうけど、バイトをしている私に言わせてみれば労働と勉学の辛さは殆ど変わらない。 最もこの学校では一意専心して勉強ばかりやっていると思う。進学校だし。

一日中座って固まった身体を両手を組んで上にあげる。

「んん〜」

「―――刹那」

「ほわっっと…あ…」

不意打ちされて変な声でた。

後ろから声をかけてきたのは正門さんだった。

なんというかその。真正面から見たのは久しぶりだ。

「正門さんだ」

「正門ですよー」

「何?」

「ウチに来ない?」

「彼氏対策ですか?」

「もう、そんなんじゃないって」

にわかに信じ難いとはこの事…。

ゲームだと正門さんの上半身の真ん中辺りにシンプル二択。

行くor行かない。のどちらかを選ばされている。

「ね、どーする?その様子だと、バイトは休みでしょ?」

「休みではあるけど…。そもそもシフト土日ばっかりだし」

「学生は勉強が本業だよ?」

「うっ、それはそうだけど。頭の悪い私には無理だよ」

「じゃあ、ウチで勉強しよう。そしたら合理的…」

「屁理屈」

「そうは言っても、来てくれるんでしょ?」

駄目だー。断れない。

何度も言うが、私は美人に弱い。

それに、私は正門さんの本性を知りかけている。

彼氏さんの話の時の露骨に嫌そうな顔は忘れられないし。

正門さんの言っていた"可能性"というものが私への感情だとしたら?

それはそれで自分でも驚くほどなんの感情も湧いてこない。

その時は寧ろどうしたら良いんだろうって脳内でクエスチョンが多発する。

「うーん。じゃあ、行く」

彼氏さんが来ないことを祈って。

「ありがとう。刹那」

大きな溜め息が出そうなのを必死に飲み込む。

ぜんぜん、正門さんが嫌いなわけじゃないし、なんなら仲良くしてくれて嬉しいし。今日だって大体、そりゃもう大まかに、1週間振りにちゃんと話せたし。

友達が少ない私にとっては喜ばしいことなのだ。

うーん、情が不安定な気がする。

見てるよ、凄く。正門さんが。なんか、ちょっと嬉しそうなんだよな。

それを見るとどーしても頬が緩む。私は甘いのかな、正門さんに。

いや、違うな?私が正門さんに甘いんではなく、正門さんが私に甘い?

だって私は引っ張られているし。

つまらない日常から引っこ抜いてくれたのは間違いなく正門さんだし、毎日のように一緒に帰ろうと声を掛け続けてくれたのも正門さんだし、背中をトントンしてくれたのも正門さんだし、手をわざわざ洗ってくれたのも正門さんだ。

もしかして私は甘やかされてる?

そう思うと途端に恨みが晴れそうになる。いや、恨んではないか。ちょっとわけがわからなくて、複雑怪奇なだけ。

私の心というものはとても単純で、いつの間にか正門さんに対して心を開いてきている事に気づく。

あー、やだなー、なんか。なんとなく悔しいし。

相手は正門千星。用心しなければならない。


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