第3の試練開始の準備

「で、気持ちの整理は出来たわけ?」


ムスッとした表情でそう言ったのはアクアリオだった。さっきまで心配そうにこちらを見ていたのは知っていた。


「心配をかけてごめんね。もう大丈夫だよ。」


そう言うと明らかに動揺しており『何で分かった?』と読み取れるくらいには表情に出ていた。


「心配なんてしてないし! 適当な事を言うのはやめてよね!? 」


そっぽを向いてしまったアクアリオを微笑ましく思っているとエゴケロスもフフッと笑っていた。彼にもアクアリオが心配していた事は分かったんだろう。


『なんかよく分からないけど行くと決まって良かったよ。僕はドキドキするような事を体験したかったからね。』


クリーオスの言葉を聞いていると他の皆より人格形成されていないのが浮き彫りになるけどこれが本来の魔石の在り方でこれからはアクアリオ達の方を異質に感じてしまうのだろうか。


そう考えていると泣き止んだゼアが一つ咳払いをした。


「感情的になってすまなかった。時間が無いことが分かったから早速これからの事を話していきたいと思う。」


ハンナも良い?と聞いてきたので頷くとクリーオス達にもう一度向き直った。


「鍵はエゴケロスと書いてあったがあれはどういう意味だ?」


そう言うとエゴケロスが此処からは僕が説明しますと語りだした。


「僕の魔力は土そして性質は大地の記憶を読み取る事。これを使用すればスコルピオスが辿った道を読み取って迷うことなく目的地に着くことが出来ます。」


人が多いところであれば行かなくても地図を作る事だってできますよとあっさりと言っているが結構凄い事を言っている。


「それって他の国の地図やお城なんかの隠し通路だって貴方には分かるって事でしょう? 」


「土から生まれた鉱石等で出来たものでは僕を騙せませんね。魔術で隠していても分かりますよ。」


私達魔術師の努力の結晶がぁ……。と嘆いているとゼアが成程なと納得していた。


「だからアクアリオはツイてると言っていたのだな。確かに今の私達には最も必要な存在かもしれない。」


その言葉に本来の目的を思い出した。


「私達はプラネテス砂漠を通ろうとしていたんだった!討伐すればエゴケロスの力を使ってアウルムにまで最短で行けるわ。」


散々どうやって砂漠を超えようか迷っていたのに解決策の方がこちらに歩いてきてくれるなんて。そう喜んでいるとエゴケロスは少し考えるそぶりを見せた。


「あ、ごめん。あの言い方だったらエゴケロスを利用するような言い方に……。」


「事実じゃん。」


そう言ったアクアリオを睨みつけると彼は素知らぬふりで口笛を吹いていた。

うぎぎ……と唸っているとエゴケロスは大丈夫ですよと言った。


「それは別に気にしてないよ。討伐をしていただくのだから、それくらいは僕を利用してもらわないとハンナ達は割に合わないでだろう? ……そうでなく、余りにも出来すぎていると思っただけ。」


「どういう意味だ?」


ゼアの質問にエゴケロスは少し迷ってから口を開いた。


「エーレが警備体制を強めてしまって必然的にゼノビア達はプラネテス砂漠を通らなければいけなくなった。そして砂漠越えを考えている時に道中で目覚めて直ぐの僕に出会った……。余りにも出来すぎていると思ってしまったんです。」


偶然が重なっただけだと思うけどとエゴケロスは言ったけど確かに改めて考えてみると出来すぎていると私も思う。


「誰かが裏で糸を引いている可能性は考えられる?」


そう言うとあり得ないとアクアリオが言った。


「世界の理を歪める事の出来る存在は僕達しかいないし仮に僕達の誰かがやっていたとしても精々僕達の足を引っ張る程度でしか出来ない。」


そう言う設定になっているからねとアクアリオは言ったけど私は一人思いついていた。


「カイロス様なら出来るんじゃない? クリーオスがカイロス様を知っていたんだから貴方たちだって知っているわよね。」


私の言葉に応えてくれる人は誰もおらず、それがカイロス様が関わっているという答えにもなっていた。恐らくは使役している等の理由だと思うけど一体いつになったらカイロス様の思惑にたどり着くことが出来るのだろう。


そんな事を考えているとゼアが話を戻すぞと言ってきた。


(ゼアはカイロス様の事、気にならないのかな? )


いや、カイロス様はゼアの家族だもの。きっと気になっている筈だわ。それでも聞かないのは前に進んでいくと決めたからだろう。それに最後まで付き合うと言ったのは私なのだから気になっていない振りをゼアと一緒にしなくては。


「ごめん、話の腰を折ってしまって。」


「大丈夫。それよりもプラネテス砂漠への行き方はどうするの? 」


「行き方は3日後に出る船に乗って行きましょう。問題なのは砂漠にどれだけ居るかだわ。スコルピオスを倒す前に私達が万全の体制で戦えないなんてことになったら本末転倒だわ。」


そう言うとアクアリオが僕が居るのに? というような顔をしている。勿論アクアリオにも手伝っては貰うけど。


「人間は水なしには生きれないけど、水だけ飲んでいても死んでしまうわ。エゴケロス、プラネテス砂漠へ入ってからアウルムへ着くまでどれくらいかかる?」


「そうだね……。頑張ったら大体2週間くらいじゃないかな?準備は正直言って3日じゃとても無理だよ。 」


「最低でも2週間だと!?」


そう声を荒げたのはゼアだった。無理もない、ヒュドールへ行く3日間の道のりだって辛そうだったのにそれの4倍近くは野宿という事になる。それに更に追い打ちをかけるようにエゴケロスは続けた。


「砂漠は夜と昼で気温が全然違うからね。夜に暑かったからといって昼の格好で寝たら風邪どころか凍死するよ。」


ゼアが小さく悲鳴を上げていたけど、其処は考えていなかった。


「温度の調節が出来るテントが居るわね。後は1月分の食料とそれを保管できるカバンの作成……。うん、何とかできそうだわ。」


あれもこれもと考えているとエゴケロスはポカンと呆けていた。


「驚いたよ。本当に3日後の船に乗るまでに間に合わせるつもりなんだね。」


つもりじゃなくて、間に合わせるわなんて言ったって私は-----


「これでも天才魔術師だから、不可能な事は言わないわ。」


そうエゴケロスに言うと彼は目を輝かせていた。……横を見ると同じような表情をしたゼアも居たので思わず苦笑いが出てしまった。










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