解決の鍵は案内人
「どういうことだ! 何故最初から持っていたことを言わなかったんだ!? 」
エゴケロスの言動に怒りを覚えたゼアが胸倉をつかんだが、彼は飄々としており私の予想通りの言葉を口にした。
「だって、言われなかったから。」
聞かれたことしか答えないのはクリーオスも一緒だけど伝えたいものがあった彼とは違ってエゴケロスの意思を感じられない。物事を俯瞰して見ている域を通り越して最早他人事だ。
そんなことよりも問題はエゴケロスが握っているラピスラズリだ。
「これは本当に魔石……よね?」
私の驚きようにゼアは不思議義そうにこちらを見ていた。以前にクリーオス達の魔石ならすぐに気が付くと私が言っていたのを覚えていたのだろう。
「何か可笑しなところでもあるの? 」
アクアリオの時と同じような感じかとゼアは聞いてきたけどその時よりも状況は何とも言い難いものだった。
「なんて言えばいいんだろう……。クリーオス達と同じ魔石、だと思うんだけど魔力を全然感じないの。中身が空っぽで……」
「つまり普通の石ってこと?」
そうだけどそうじゃないと言えば意味が分からないと言った顔をされた。無理もない、私が同じことを言われたら似たような表情をしたと思うから。
「魔石は2種類に分けられるの。一つは魔力が時間をかけて鉱石になったもので、二つ目が後から鉱石に魔力を注いで出来たもの。クリーオス達もこのラピスラズリも魔力が鉱石になったものだわ。」
本来であれば魔力の無くなった鉱石は砕け散ってしまう。この状態で残ることがまずありえないと言えば凄いと目をキラキラさせて言われた。
「ハンナは見ただけで分かるのね。」
そんな事を言われるとは思っていなかったので照れ隠しの様な返事をしてしまった。
「大体の魔術師であれば識別は出来ると思うよ。」
「お城ではそんな話は聞いたことない! やっぱりハンナは凄い魔術師なんだ!」
そう言って力説しようとするゼアを止めたのは意外にもエゴケロスだった。
「じゃあ、試練の内容を説明するね。」
突然の試練宣言に二人して驚いてしまい動けずにいるともう一人の完全なる傍観者であったクリーオスがエゴケロスに話しかけてきた。
『話すのはトクソティスだよね。 あいつがその状態って事は僕が必要って事でしょう? 』
クリーオスの言葉にアクアリオは呆れたような態度だ。
「まるでこうなる事を知っていたかのような段取りだ。こうなる事は初めから読んでいたってことだから見事としか言いようがないね。」
(クリーオス達から感じるエゴケロスへの疎外感は何だろう……。当事者の筈の彼抜きで話が進んでいる気がするから? )
ゼアもそれを感じているようだけど、当の本人は気にしている様子は無く私達だけがモヤモヤした気持ちになっていた。
だから、今私は彼に向かって足を一歩踏み出しているんだろう。
「エゴケロス、このままでいいの? このまま皆に任せていると気が付いた時には魔石に戻っているとおもうんだけど。」
お節介を焼いてしまったのは彼とその状況を私と重ねてしまったせいだろう。
諦めと後悔を繰り返した過去の私を見ているみたいで腹が立ったのだと思う。---だから私は彼らの本質を忘れていたのだろう。それをエゴケロスが突き付けてきた。
「僕は試練を君たちに与える為にここに居る。役目が終われば魔石に戻るのは当たり前だよね? 」
その言葉は私の頭を冷やすのには十分だった。
(そうだ、彼らに感情は存在しない)
沢山の言葉を交わしたせいで彼らの本質を忘れてしまっていた。けれど、それと同時に気になる点が出てきた。
「エゴケロス、目が覚めてからあなた自身に特に変わったことは起きなかったの? 」
あの姿のままで町に出て問題になっていないと彼は言った。世界の理を歪めているのならアクアリオの様な魔石への変質が起こっているはず。
その言葉に反応したのはアクアリオだった。
「それを答えるのは難しいと思う。なんて言ったってこいつ自身が何が起こっているか認識しているかも怪しいんだから。」
『それもソクトティス知っている筈だよ。早く魔力を接続してみようよ。』
クリーオスがそう言うとラピスラズリが光りだした。恐らくは私にしたみたいに空っぽの魔石に魔力を注いているのだろう。
しかし、クリーオスが魔力を注いでいると突然魔石が砕け散ってしまい、これには流石のクリーオスも驚きを隠せないでいた。
『僕は彼に魔力を注ぎきっていないよ!? 』
そんな彼の擁護をしたのは何とゼアだった。
「こいつは意味もなく破壊行動などしないはずだ。そんな生産性の無いことをするような奴じゃない。」
嫌な信頼の仕方だなぁと思っていると地面に魔力を感じたので見てみると地面に文字が彫られていた。
【砂漠のサソリを討伐せよ 鍵はエゴケロス】
「どういうことだ? 試練はエゴケロスが与えるんじゃないのか?」
『それはエゴケロスが答えてくれると思うよ。』
ゼアの言葉にクリーオスがそう言うと何の反応も示さなかったエゴケロスが話し出した。
「先生と僕の試練だよ。本当は違ったんだけどね、予定が変わったんだ。」
どういうことだろうと首を傾げているとエゴケロスはお構いなしに話を進めた。
「僕が目を覚ましたのは1年前で、その時には先生は先に目を覚ましていた。僕達は来たる役割を果たすために時が来るのをこの場所で待っていたんだ。」
さっきまでの態度が嘘の様に饒舌に話し出した彼に驚いていたけど気になる点があって彼に話しかけた。
「待っていた? じゃあ、あの港町周辺の理が歪んでしまったのは何時なの? 」
「半年前だよ。半年前にあの町が無くなってしまったから理を歪めたんだ。」
「無くなった!? そんな話聞いたことが無いわ!!」
そう言うとじゃあ聞くけどと言って私に聞いてきた。
「その町の名前……言える? 」
「え? 」
当たり前だ。地図にだって載っているのに答えられないはずがない……そう思うのに港町の名前が私の口から出ることはなかった。その事実に呆然としているとそれが理の歪みだよと彼は言った。
「あの町が消えた事実を無かったことにしたんだ。結局事実は消しきれなくて名前は消えてしまったんだけどね。」
エゴケロスがそう言うとあり得ないとアクアリオが言った。
「あの町周辺の認識阻害じゃなくて隠滅だって? 一体どれだけの範囲に認識の影響が及んでいるんだ。」
アクアリオの問いにエゴケロスはエヴィエニス全域だよと答え、アクアリオの顔色が悪くなっていた。
「一体何をすればそんな状態になるって言うんだ……。」
あの町には少なくとも千人はいただろう。無かったことにしたという事はそれだけの人を殺したという事なのだろうと思っているとエゴケロスは口を開いた。
「スコルピオスがやったんだ。」
「誰だそいつは。」
ゼアがそう言いうと、だからサソリ退治なんだねとクリーオスが呟いた。
『僕らと同じ魔石だよ、姿は巨大なサソリの姿をしているんだ。でも、彼がそんな事をする奴とは思わなかったよ。』
納得いったよ淡々とした言葉はゼアを怒らせるのには十分だったみたいだ。
「お前の同胞が多くの人を殺めたんだぞ!? 良くそんな……っ!」
『だから、ソクトティス達は理を歪めたんだろう? スコルピオスを倒すことを試練にしてから解決させて自分達が魔石に戻れば全て無かったことに出来るんだからね。』
「理を歪める事は人為的に可能な事なの?」
『本来は抑止の為に付けられたものだから出来ないよ。歪みが生じれば対処できるように僕達は歪んだ空間を認識できるわけだしね。』
人為的なものじゃないって事なの? それにしてはエゴケロスの言い方はまるで自分たちでを作ったと言っているようにも聞こえた。
「理を歪めたのは先生が全てをかけてやった事なんだ!先生はスコルピオスの毒に侵されながらも懸命に……っ!」
そう言って彼は泣き出してしまった。最初の印象との余りの違いに驚いているとゼアがエゴケロスに近づいてじっと彼を見つめた。
「お前……それが本来の姿だな?」
ゼアがそう言うと彼は困ったように微笑んだのだった。
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