物事の前進と話し合いの停滞
借り家に戻るとアクアリオは戻ってきていた。しかも家主がごとくゼアと二人で選んで買ったお茶を飲んでいる。案の定ゼアは怒った表情をしていた。
(あの茶葉は初めて自分で稼いだお金で買った物だから大切に飲んでいたのよね……)
他にもお茶の銘柄はあった筈なのにその茶葉を選ぶなんて2人は似ているところがあるのかもしれない。
「やはりお前は私を怒らせることがとても上手いな。」
魔獣も恐れて逃げだしそうな表情をしているゼアにそれでもお茶を飲みながらアクアリオはゼアに質問をしていた。
「前から思ってたけど僕達とハンナで口調が違うのは何でなの?」
(この状態のゼアに聞くことがそれなの!? )
剣を抜くのも時間の問題かもしれないと冷や冷やしていると意外にもゼアは冷静さを取り戻していた。さっきの言葉に何か思う事でもあったのだろうか。
「私の中でお前とハンナが同等だと思うか? 」
「全く思わないよ。でも、ハンナに口調を変えてるのは何で? 家族の様に大切だからとか? 」
アクアリオの言葉にゼアは少し困惑をしていた。もしかしたら無自覚だったのかもしれない。
「ハンナを家族のようだとは思ったこともないな。お父様は尊敬はしているがハンナの様に接したいとは思ったことが無い。」
今度は私が困惑する番だった。ゼアの言い方だと血のつながった家族よりも大切だと言われているみたいで反応に困ってしまう。
そんな私をよそにアクアリオは納得したのか飽きたのか分からないけど、軽く相槌を打ってお茶のお代わりをしていた。
『そんなことより二人の表情から察すると砂漠越えを決めたみたいだね。』
懐中時計に埋まっているルビーがキラキラと光を放っているのを見てアクアリオはため息をついた。
「人間の気持ちを理解できないくせに分かったようなこと言うと痛い目みるよ。僕が言うんだから間違いない。」
「アクアリオのそういう発言は反応に困ってしまうんだけど……。」
笑いながら言う彼の発言は彼の過去を知っている身からしたら中々に笑えない。
そう思っていると感情を読み取ったわけじゃないよとクリーオスは言った。
『2人が言い合いもせずに帰ってきたんだからそう思う事は当たり前じゃないかい? やっと話が進みそうで嬉しいよ。これ以上の停滞は僕の望むところではないしね。』
クリーオスの言葉に返す言葉がなく、肩を落としているとムスッとした顔をしたゼアがクリーオスに話しかけていた。
「こちらは旅を始めて早々に命を懸けることになったんだ。慎重になったとしても可笑しくはないだろう。」
『自分の意見が通った途端にハンナ贔屓の発言になるんだから君も結構単純だね。』
「アクアリオに言った言葉は聞いていたと思っていたんだが、また言わなければいけないか? 」
放っておくと永遠に問答が続きそうな状況を止めたのはアクアリオだった。
「2人とも其処までにして。砂漠越えより先にこの町にいる魔石の話をしなきゃいけないでしょ。」
「えっ!? この町に魔石があるの!? 」
ここに来てから探知魔術をかけて探ってはいたけど見つからなかった。まさかクリーオスに手伝ってもらってからまた探知が失敗している事に自己嫌悪していると呆れたようにアクアリオがこちらを見ていた。
「ゼノビアにバレない様に探知魔術かけてたでしょ? それで見つけられると思われているなんて僕達を馬鹿にしているようにしか見えないんだけど。」
(そこまでバレていたなんて……)
探知魔術はかけていたけどあくまでもゼアに気取られない様に行っていたので探知が甘かったのも事実だった。それを知っていたのなら馬鹿にしているように見えるのも仕方ない。
「それについては本当に申し訳ないことをしたと思っているわ。ごめんなさい。」
そう謝罪すると意外だったのかアクアリオは驚いた表情をしていた。
「ずっと僕達の言葉に黙ってるだけだったのに珍しいね。」
「ゼアに嫌われたくなくてやったことだけど本来は魔術を扱う人にとって最大の侮辱だもの。」
成程ね~と言いつつも紅茶を飲み終わったのかこちらに体を向けて机に肘を置きながらこちらを見ていた。
「それ以外の事は悪いと思っていないって事ね。僕達の言葉に言い返さなかったのはそういう事だったんだ。自覚がある分、質が悪~い!」
ニヤニヤと笑っているアクアリオに私も微笑んで見せた。自分の性格がよろしくない事なんてとっくに分かっているのだからこれくらいの言葉なんて何とも思わない。埒が明かないので話し合いは私がまとめる側に回ることにした。
「楽しくなっているところ悪いけど、魔石の探知は出来ても探すのは難しいんじゃないの? クリーオスの様に見た目で判断出来たり貴方みたいにそちらから接触してくれると助かるけどそうとも限らないでしょう?」
そう言うとアクアリオは苦虫を嚙み潰したような表情をして黙ってしまった。
(そんな顔するくらいなら初めから言わなければいいのに)
けれど、旅の初めにした懸念事項がここに来て浮き彫りになった気がした。この港町に魔石があると言っても何の異変も感じなかったから理がゆがんでいるなんて考えられなかった。
(その前にゼアとの件があって頭から抜けていたから全て言い訳にしかならないけど)
そんな事を考えているとクリーオスが衝撃的な事実を言った。
『僕達は歪んだ空間に入ったらどの魔石がその理を歪めているのか分かるよ。』
その発言で何か思う事があったのかゼアはアクアリオをギロリと睨みつけていた。
「つまりお前たちは最終的にはこの状態になると踏んでいたから今まで何も言わずにいたって事か? 随分と良い趣味をしているな。私達の葛藤は見ていて楽しかったか? 」
『最初は面白かったけど、長い事続くと面白みがなくなるね。途中で飽きちゃった。』
その言葉を聞いてゼアは剣を抜き、懐中時計を破壊しようとした。クリーオスが話し出してからこうなるとは思ってはいたけど、ゼアの行動は私の思考よりも早かった。
「ゼア!! 」
けれど、私の言葉よりも先に水で出来た鎖がゼアを拘束していた。
「クリーオスが人間に寄り添った言葉なんか言わないなんてわかり切ったことだろ?……あぁ、聞こえてないね、これ。」
アクアリオの古代魔法で作られた水の鎖はまるで金属の様な音を立てていて、ゼアの必死の抵抗が伺えた。それよりもゼアの思った以上の癇癪じみた行動に驚いていたけど、そんな私の事はお構いなしにアクアリオは話しかけてきた。
「ハンナ、この獣をどうにかして。」
「獣って……そんないい方しないでよ。」
あんまりな言い方に言葉を返すとアクアリオは親指でゼアで指差した。
「今のあいつが人間に見えるの? 」
ゼアはうめき声をあげながら力いっぱいに手足を振り回して拘束を解こうとしているその姿をアクアリオは獣と称したのだろう。確かに何も分かってない状態で見たら理性を失ったその姿は獣に見えたかもしれない。
まぁ、あくまで他人から見たらの話なだけでそれこそ私には関係のない話だ。
「ゼアは怒っているだけでしょう? 」
そうアクアリオに言ってからゼアの元へ向かい、私の様子をアクアリオは顔を引きつらせて見ている。
「あれが怒っているだけだって? 本当にそう見えるならハンナも相当イカれているね。」
「そんな言葉が出てくるなんて私よりも人間みたいね。」
アクアリオは感情が育っているだけで基本的に人間が嫌いな事なんてわかり切っている。それでもそんな言葉が出てくるくらいには私も怒っていたのだと、この時に自覚したのだった。
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