見えていなかったのは私だった
「何って……もちろん魔石を集めて私達を元に戻すことだよ。」
アクアリオの言っている事に少し動揺をしてしまった。
目的を忘れていたわけじゃない。でも、目的達成の為に何かしたわけでもなく過ごしていたことに罪悪を覚えてしまったから。
「そうじゃなきゃ僕はここに居ないからね。でも、僕以降からその先は?僕が起きてからそんなに時間がたってないから今この現状じゃ何がしたいかよくわかんないだよね。」
アクアリオの発言に不思議に思ったゼアが口を開いた。
「クリーオスと一緒に話を聞いていたんじゃないのか?」
ゼアがそう言うとやれやれと言ったポーズをとって話し出した。
「聞いてはいたけど、こうやって分身体を出すどころか魔石から話すことも出来なかったんだよ? 疑問に思った事を聞くことも出来やしない。」
「疑問ってなんだ?」
ゼアの質問を聞いてからアクアリオは私の方を見た。
「僕もゼノビアの意見に賛成だよ。何でそこまで反対の意見を通そうとしてるのか分かんないんだけど。」
その言葉に体の熱が奪われていくような冷たい感覚に陥った。
「アクアリオだって分かっているでしょ? あの砂漠は二人で越えられるものじゃない。死に行くようなものだよ。」
「死ぬかもね。……で、他に理由は?」
その言葉の意味が私には理解できなかった。アクアリオの言葉で冷め始めていた私の体が今度は燃え滾るように熱くなっていくのを感じた。
「で? って何。死ぬと分かっている場所にゼアを行かせないって理由以外に何があると思うの? 」
「それだけの理由なら尚更だ。今のエーレって警備体制が強くなってるんでしょ? 今行ったって捕まりに行くようなものだよ。」
それが分かんないで言っているわけないよね?なんて私を見るけど、そんな事は私だって分かっている。
「そんなの分かってる!でも、私達にプラネテス砂漠を超えるなんて事は不可能なんだよ。行けば絶対に死んでしまう。数パーセントでも確率があれば私だってゼアに賛成したかも知れない。」
生きてアウルムに着く方法があれば私だってそっちを取った。でも、死を覚悟して行った沢山の調査団が結局帰ってこなかったのを私は知っている。
知っているからこそ、私達は大丈夫だなんてそんな事言えるわけがなかった。
「ここにある魔石を見つけてエーレに向かう。二人が絶対に死ぬより私を囮に利用してでも生き残る方が良いに決まってる!」
すると私の言葉を聞いたアクアリオはすっと目を細めた。
「僕には分からない思考だね。ハンナは死んで良くてゼノビアは死んだら駄目なの?」
アクアリオの言葉に今度こそ血が上ってしまい、この時ゼアがどんな表情をしていたかは私には見えなかった。
「当たり前でしょ!? 私とゼアでは命の価値が違う!私は魔術師になった時から国の為に死ぬ覚悟なんてとっくに出来てる!!」
本来、こんな状況でなくても守るべき対象なのだ。自国の姫が死ぬかもしれないこの状況でその言葉は侮辱以外の何物でもなかった。
「私は国の未来を守る義務がある。共に死ぬ選択しか無いわけじゃないのに私がゼアを死なせる選択肢を取ると本当に思うの!? 」
息が上がって声が震えた。きっと私の表情も見せれたのもじゃないと思う程の怒りだった。
そんな私をアクアリオは先程の表情のまま見つめていた。
「中途半端な回答。ゼアって愛称で呼んでるくせに扱い方は姫なんだね。」
「何、言って……。」
「成程、確かに僕の認識不足だった。ねぇハンナ、そこに居るのはゼア? それともゼノビア姫?」
その問いに答える前にゼアが走って外に出ていってしまった。ゼアの事をすぐにでも追いかけなきゃいけないと思っているのに足が石にでもなったかのように動かなかった。
(追いかけて、私はゼアになんて声をかけたら良いの?)
私の判断は決して間違ってるなんて思わない。
そう思っているのに慰める為の言葉で『私が悪かったよ』って言うの?何も悪いなんて思っていない私の軽い言葉はゼアが本当に欲しい言葉なの?
思考がぐちゃぐちゃになってしまっているとため息をついたアクアリオが私に問いかけてきた。
「ハンナはさ、さっき言った言葉をゼアに言われたらどう思うわけ?素直にその方が良いって言える?」
そんなの言えるわけない。そう思った時私はやっとこんなにムキになってしまっていたのか分かった。
建前を作って、それっぽい言葉を並べていたけど本当に言いたかった言葉は違ったんだ。
「私はゼアに……死んでほしくないんだよ。だって、ゼアが好きで大切だから。だから、私を犠牲にしてでも生きて欲しいって思ったの。」
言っている最中にボロボロと涙が出てきた。『大切だから死んで欲しくない』とゼアはちゃんと言ってくれていたのに、私はアクアリオに言って貰わなくちゃ自分自身の本音すら分からないままだった。
(何も見えていないのは私の方だった)
建前を本音だと思っていた。結局はゼアを傷つける事になるとも思わないで言ってしまった。
「私、この旅の時だけは立場も忘れて欲しいって思ってたのに、全然出来て無かった……。」
ゼアを傷つけて、私は何をやっているのだろう。
さっきから出てる涙は私のどうしようない態度を思い出して中々止まってくれなかった。
そんな私の涙を止めたのはアクアリオな言葉だった。
「泣くのも思いを伝えるのも僕が相手じゃないでしょ。」
その言葉を聞いてやっと石のようだった足は動くようになっていた。
「ありがとう、アクアリオ!!」
お金を置いてゼアを追いかける為に私は食事処を走って出て行った。
「正しいことが何時だって答えとは限らない。……そんな感情論を僕に言わせないでよ。」
悲しげに呟いたアクアリオの言葉は理解不能だと感じている同士にしか届かずに消えた事も知らずに。
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