新たな事実と言えなかった言葉
アクアリオの登場に驚いていると彼は不満そうな顔をした。
「何? 僕が居たら何か不都合でもあるの? 」
その言葉にハッとして疑問に思っていたことを口にした。
「姿を現しても大丈夫なの? クリーオスからは相当な魔力が消費されるって聞いたけど。」
「まぁ、僕の話をクリーオスから聞いてはいないよね。だからその辺を詳しく僕が教えてあげようって思ったわけ。」
そう言うと立ち上がって家の扉に手をかけて出て行こうとしていたので不思議に思ったらしいゼアがアクアリオに尋ねた。
「話すって言ったのに何処に行こうとしている?」
ゼアの言葉を聞いたアクアリオは大きくため息をついた。
「何で僕が無償で教えないといけないわけ? どんなものであれ対価は必要だと思うんだけど。」
「何が望みだ? 今は用意が出来る物が限られているがーーーーー。」
「え? 僕この町のご飯が食べたいんだけど。」
アクアリアのその言葉に私とゼアは二人してきょとんとしてしまった。
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「港町に行くってなった時から絶対に海鮮料理を一回食べてみたかったんだよね。」
アクアリオを連れて来たのはこの町で一番美味しいと評判の食事処だった。
『アクアリオ、次はこのスープを食べてよ。僕だって食べたかったんだから。』
「うっさい、何を食べるかなんて僕の勝手だろ。魔力接続して味覚の共有をしてるんだから感謝して。」
そうは言いながらもクリーオスの食べたいと言っていた魚介のスープを店員に頼んでいるあたり人の良さが伺えた。
(やっぱりアクアリオはクリーオスよりも何処か人間味があるんだよね)
そんな事を考えていると気が済んだのか食べるスピードを落としてこちらを向いた。
「僕がこうして実体を保てている事について聞きたいんだったよね。」
「まぁ、それもあるけど……。」
言うだけ言って最近まで応えてくれなかったクリーオスどころかアクアリオまで出てきてくれたのだから次の魔石に関して聞くべきなのだろう。
(タイミングを見て話さないと。ゼアに話を逸らされたらおそらく2人からのチャンスはもう無い)
私の異変に気づいているか分からないけど、さっさと用事を済ませようとアクアリオは話し始めた。
「魔石には属性以外にも一つだけ性質を持っているんだ。例えば僕なら属性は水で魔力の消費なしで身体を作って自由に動ける。」
元が生命体じゃないからねと言ってなるほどと思った。アクアリオの本体は魔石の付いた水瓶だったからこその性質なのね。
「クリーオスも属性は水で性質は魔力の接続。自分と違う魔力を変換して他者や物質に入り込む。」
今、僕にやっているみたいにねとスープを口に運んだ。
「魔力変換は確かに人間の出来る事じゃないわね。私達に出来るのは魔力を物質に流す事だけだから。」
どんなものであれ自分以外のものへの干渉は普通であれば一定量の魔力を通すと弾かれてしまう。世界の理を壊さない為に踏み込めなくなっているとは言われていたけど、クリーオスは簡単にそれの踏み越えをしていたので凄さが伺えた。
『僕の凄さが分かってくれたかい? ハンナにやった変換した相手の魔力に上乗せするのは僕の性質を応用したものだよ。』
当たり前だけどクリーオスは接続対象より魔力を持っているわけだから使う分よりも多くの魔力が変換されることになる。純粋に接続の性質しかないから自分の力の半分だけを変換とかはできないのかもしれない。
「元は自分の魔力だから接続対象に分けてあげるのも自由に出来るって事か?」
うんうんと考えながらゼアはアクアリオに答えていたけどそれだと惜しい。その証拠に彼はゼアへ曖昧に返答していた。
ゼアの様に考えれば対象にメリットしかないように思えるけど彼の本質は魔力を通すことによる接続対象への介入だ。接続先からの魔力を奪ってしまう事も可能だと思うので実質的に生殺与奪の権利は接続対象になった時点でクリーオスのものという事になってしまう。
「クリーオスを敵に回したくはないと改めて思ったわ。」
「そう考えれるだけアンタは痛い目に合わない部類だと思うよ。」
私の考えが分かったのかアクアリオは食べながらではあるけどそう答えてくれた。どうやら私の考えで合っているらしい。
暫くして、頼んでいた物を食べ終えて一息ついているとアクアリオは私とゼアをじっと見ていた。その視線に先に気が付いたゼアがアクアリオに話しかける。
「私に何か言いたいことがあるんだろう? 」
そう言ったゼアはまるで説教を待つかの様な表情をしていた。ゼアも今の状態の終わりが近づいている事が分かっているのかもしれない。
(でも、それは私だって同罪だわ)
短い時間だったけど穏やかで楽しい時間だった。それをゼアが責められるなら私だって責められるべきだ。
「私達にはやらなくてはいけない事を放棄したに等しいことをしたと思っているけど、心穏やかに過ごしたいという事の何がいけないというの? 」
出来るだけゼアに怒りの矛先がいかない様にアクアリオの嫌悪を私に向けようとしたけど、そんな私の心情を知ってか知らずか彼は微妙な表情をしていた。
「あー、確かにそれも言いたいことではあるんだけど……。」
そう言うと何処か照れくさそうな顔をして話し出した。
「ヒュドールの領主のこと……。あれは僕の為だったんだろ?『無かったことにしたくない』って言って行動してたのは眠っていても見えてたから。」
「あれは、私とハンナが勝手にやったことだ。礼を言われることはしていない。」
ゼアのツンとした態度に触発されてしまったのか先程の表情からいつもの表情になっていた。
「うっさいなぁ! 僕がお礼を言うなんて滅多にないんだから有難く受け取っとけよ!!……まぁ、僕は何もできなかったから、アイツが捕まった時の表情はなかなか痛快だったよ。」
その言葉を聞いて違和感を覚えた。
「え、アクアリオはあの領主を殺してしまったんじゃなかったの?! 」
私のその言葉にアクアリオはムッとした表情を浮かべていた。
「何? まるで僕にあいつを殺していて欲しかったみたいに言うじゃん。」
「いや、違うよ!? あの時の言葉でてっきり殺してしまっていたものかと……。」
その言葉にゼアも首を縦に振って同意してくれた。やっぱりあの言い方だとそう思うよね!?
「あいつは僕が血まみれな事に気が付いて殺されると思ったのかさっさと何処かに行ったよ。逃げた時に僕の歪めた理の範囲内から出たから記憶が可笑しくなったんだと思う。」
そこから先は知らないよとちゃっかり頼んでいた食後の紅茶を飲みながら答えた。
『ちゃんと僕は言っただろう? アクアリオに人を殺せないって。』
アクアリオを通してクリーオスが話しかけてきた。
「てっきりクリーオスの言ってた魔石が変質してあんなことになってしまったのかと思っていたけど違うのね。」
『アクアリオの分身体は色んなものへの干渉を受けないからね。だから僕に平気で魔力接続してるんだよ。』
(アクアリオは体の主導権を奪われないからクリーオスに好きにさせていたのね。)
ゼアは良く分かってなさそうな顔をしていたけど考えるのを止めたのかこちらを見てきた。
「まぁ、魔力接続している間は対象を好きに出来るって事かな。」
そう言うとゼアは理解したらしくクリーオスへ少し警戒を強めていた。
その様子を見てアクアリオは口を開いた。
「僕たちが人間の隣人なだけじゃないと理解してくれて良かったよ。二人が集めないといけないの物は人智を超えたものだから。」
だからこそ聞きたいんだけどさとアクアリオは私達に視線を向けた。
「ゼアとハンナは何がしたいの?」
アクアリオから放たれた言葉と曖昧な言葉は許さないと言わんばかりの視線は此処に来てからの穏やかな時間の終わりを示していた。
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