目を逸らす2人と予期せぬ再会
目の前の魔獣にゼアが剣を振るい、私が魔術で応戦する。
3個目の魔石を見つけるために私たちは、船に乗るための路銀を集める為に魔獣討伐にいそしんでいた。
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事の発端は、宿で私が次の目的地をエーレ国にしようと提案した時にゼアが苦い顔をした。
「今のエーレ国に入るのは難しいと思う。 」
ゼアの話によると表ざたにはなっていないけど、近ごろ犯罪者が多く出ておりどの国よりも厳重に警戒体制が執られているらしく、私がエーレ付近でイオンの花を採ってくるのを止めたのは、これの理由もあったらしい。
「もどかしいですね。エーレはエヴィエニスから一番近い国なのでそこから調べていく予定だったのですが。」
エヴィエニスの領土と人口に引けをとらないエーレだったら、今までの様に魔石の影響を受けている森や町があっても可笑しくはないから結構優先順位が高かったけど、事情が事情なだけあって強引に物事は進めることは出来なかった。
「私はともかくハンナは今、指名手配をされているからね。隣国のエーレだと早々に張り出されていると思うよ。」
「私もそう思います……。」
それもこれも、何も言わずに勝手に居なくなったクロノスのせいだ。
そんな事を考えているとゼアはリュックから地図を取り出して机に広げてきたので一緒になって覗き込んだ。
「エーレが警戒態勢を緩めてくれるのを待っている時間はない。遠回りしつつ情勢を確認しながらの旅になると思う。」
そう言ってゼアは一呼吸おいてから話を進めた。
「私はアウルムに行く方がいいと思っている。ハンナの意見を聞かせてほしい。」
多分だけど私もアウルムに向かう方がいいと提案すると思っている。
恐らくゼアが聞きたいのは行き先じゃなくて、『行き方』だ。
「アウルムはエーレを避けて行くなら陸路では海路になります。港町からプラネテス砂漠を超えるのは避けては通れないでしょう。」
「プラネテス砂漠を超えるのは必須条件か……。」
エーレとエヴィエニスは隣国ではある。
しかし、アウルムとエーレが隣国だからといってもエヴィエニスとアウルムは遠く離れている。アウルムは北にあり、東にあるエヴィエニスと隔てる様に真ん中に海がある。
ここからだとエーレを介してアウルムへ行くのが基本的だ。
(今まで海に行く必要性がなかったから、私から言えることはほとんどない。そして、最大の問題はゼアも気づいている)
「正直に言うと、プラネテス砂漠を2人で超えるのは不可能だと考えています。」
プラネテス砂漠は『彷徨い人』とも呼ばれ、砂漠調査の帰還者は今まで一人もいなかった。砂漠に関する情報も少なく、数少ない情報の中に魔獣も多いと言われている。
そんな場所では栄えることもなく、海の近くにしか町は無い。
「地図をみてわかると思いますけど、海の近くにしか町は無いです。つまり、中間地点で休むことが出来ないので迷うことはおろか、最短距離を進むことがプラネテス砂漠を超える必須条件になります。」
ここまで話し終えるとゼアは考えるそぶりを見せた。
(どちらの選択をとっても命の危険がつきまとう。ゼアの安全を考えるならエーレを選んだ方がいい)
私の話し方に賛同してくれていないと気が付いたのかゼアは顔をしかめていた。
「エーレに行くこともプラネテス砂漠を超えるのも同じほどの危険がともなうと私は思っている。それに、行く途中で魔石を見つける可能性だってある。」
ゼアのいう事は正しいけど、私もここは引き下がれない。
「ゼア、優先順位を間違えたら駄目だよ。2人とも生きてアウルムまで行ける保証はない。エーレだと私1人の命が狙われるけどゼアは……姫殿下が死ぬリスクはない。」
だからと言葉を続けようとしたけど、ゼアが癇癪を起したように言葉をかぶせてきた。
「嫌だ!! ハンナを1人で死なせない! 死ぬときも生きるときも一緒だと私はとっくに覚悟を決めているのに!! 」
思いもよらない発言に言葉を詰まらせてしまった。
「わ、たしはーーー。」
ゼアが私の言葉を待っているとまたしても空気を読まない声が聞こえてきた。
「砂漠越えをするのは興味ないけど港町に行くのは良いと思うよ。」
「クリーオス……。何が根拠なの? 」
声のする方を向けば懐中時計に嵌っているルビーがピカピカと光っていた。
「僕の魔力をあげるからもう一度この時計に探知魔法をかけてごらん。」
クリーオスの言葉で前にかけた探知魔術をかけてみた。
「これは……っ! 」
クリーオスの魔力のおかげで探知可能な範囲が一気に広がり、港町付近で時計の1時を指し示す窪みとの魔力の共鳴を感じた。
(ここに来た時に探知魔術をかけたけど、魔石の共鳴を感じなかったわ。だから、もう一度探すなんて選択肢からなかった)
クリーオスに手伝ってもらう事が思いつかなかったのは、同じことをやっても無駄だと諦めていたからかもしれない。
「これでもまだエーレに行くっていうのなら僕は止めないよ。決めるのはゼノビアと君だ。」
そう言ってから声は聞こえなくなった。懐中時計をよく見ると先程の様に光ってはいなかった。
あんなことを言った後なのでゼアになんて話しかけようかと迷っているとゼアの方から話しかけてきてくれた。
「行ってくれるよね? だって、行かない理由がないから。」
「そうだね……。港町付近に魔石があるから。」
多分、アウルムへ行くのを諦めていないゼアに私は港町に行くだけだとを強調して伝えて取りあえずの行き先が決定したのだった。
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そんなことがあったのでゼアとは少し困った関係が続いていた。
普段は普通に話してくれるのに、この土地で魔石を見つけた後の話をしようとすると会話を止めてしまうか、別の話題に変えようとしてしまう。
そして港町についてから魔物討伐をしつつ路銀を稼ぎながら情報収集をしていたけど、今ある情報以外に収穫はなくて完全に行き詰っていた。
(思ったよりも時間がかかりそうだし、長期利用を考えると家を借りた方が安くなると思って借りたけど、多分その事も現状を悪くしてる。)
海の見える家、自分たちで稼いで町の特産品を食べたり偶には自分たちでご飯を作ったりしている。
そして、この穏やかな時間を壊したくないと思ってしまう私がいる。
恐らくだけどゼアも同じ気持ちなのだと思う。
あと1日だけとお互いが願ってしまうからゼアは話を逸らすし、私だってゼアに強く言い出せないでいる。
こうして魔獣をお金に変換して変わらない1日が終わろうとしているとき、借りている家に知った魔力の反応を感じて急いで家に入った。
「遅い‼ 僕を待たせるなんて本当にいい度胸してるよ。」
家の椅子に座っていたのは、魔石に戻ってから全くの反応が無かったアクアリオだった。
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