第2の試練開始
目の前で嗤っている子は本当にさっきまで一緒にいた少年かなのだろうか。
そう思っていると私の後ろにいたゼアが前に出た。
「何だ、もう本性は隠さないのか? 」
ゼアがそう言うとへぇと感心した表情をしていた。
「よく分かったね? 僕は嘘なんてついてなかったけどな。だから、そこの女は気づかなかった。僕の話を真剣に聞くのが可笑しくて笑いを堪えるのが大変だったよ。」
まぁ、助ける気は無さそうだったけどねと言って嗤う彼に情けない気持ちになった。罪悪感が優先して彼に感じていた違和感に気づかない様にしていたのだから。
(ううん、罪悪感なんて唯の言い訳だわ。見抜けなかった事実は変わらない)
過ぎてしまった事を悲しんでいられる程今の状況は穏やかじゃない。彼は一体何者なのだろうか? そんな事を考えていると、ゼアが口を開いた。
「嘘も言っていないだろうが、お前は本心でも話していなかった。お前の言葉は軽すぎる。本当に誰かを思って憂いている人の言葉の重さを私は知っている。」
そう答えるゼアの瞳は真っすぐとリオを射貫くように見つめていた。
その言葉に心底嫌気がさしたような表情をゼアに向け挑発するように話し出した。
「あーあ。そういうのはいいって。何でそんなに必死になっちゃってるの? そんな感情を大事にしちゃってるから、お前ら人間は直ぐに破滅するんだよ。」
リオの周りに魔力が練り込まれていき、少し前にクリーオスで感じた生命体が持てるはずのない大幅に超えた魔力量を肌で感じていた。
「貴方が魔石だったのね。」
「そうだよ! 改めて僕の名はアクアリオ。お前らに試練を与える者の名前だから良―く覚えるんだよ? でも、僕が起きてからこの瞬間まで長かったよ。」
やれやれといった態度のアクアリオの言葉に私たちの認識がズレているような気がした。
「それだと、まるで私たちが此処に来るってずっと前から知っていたって事? 」
「あー、これ言っちゃいけないやつだ。聞かなかったことにして。」
先程の言葉を受け流されてしまい、話してくれる気は無いと思ってもう一つ聞きたいことを聞くことにした。
「仮に私達を試すために貴方が起きたのだとして、この町をこんな状態にしたのは何故なの? こんなことをしたって貴方にメリットがあるようには見えないわ。」
しかし、アクアリオはきょとんとした表情で残酷な言葉を放った。
「何って……。暇つぶしにそんな大層な理由なんているの? 」
あんまりな発言に言葉を無くしていると、私達の代わりに男がアクアリオに話しかけていた。
「随分と大層な趣味を持っているんだな。愚かな人間の見物は楽しかったか? 」
「お前が僕達に興味を持つなんて珍しいな、クロノス。どいつもこいつもあのチビに影響されているの? 」
(この男の人、クロノスって名前なんだ)
初めてこの人の情報を知れたことに興味がいっていたので私の事を良くは思っていないんだなくらいにしか思っていなかったけど、ゼアはそういう考えではなかったらしい。
「さっきからハンナを蔑ろにされて気分が悪い。所詮は無機物のくせに人間の在り方を語るな。」
「……その言葉、後悔しないといいね。さて、長話もなんだし本題に入ろうか。」
そう言って彼は水瓶の近くまで行ってしまった。
「内容はとてもシンプルで時間内にこの水瓶を壊す事。水瓶が壊れてしまったら埋まっている魔石が取れて強制的に僕は魔石に戻るように『設計』した。あ、クロノスはこの試練に加わったら駄目だからね。何が起こってしまっても端で見ている事が出来ないなら帰って。」
彼の言葉にクロノスは端に寄って、私たちは臨戦態勢を取った。
しかし、アクアリオは楽しそうに顔を歪めて説明の続きを話し出した。
「誰が二人で挑めって言った? これに挑戦するのはゼノビアだよ。そして……」
そう言うと、私の真下から巨大な水の渦が現れて私を飲み込んだ。
魔法陣が現れなかった事と私が気付く前に発動した速さから古代魔法を使ったことがうかがえた。
「制限時間はこの女の息が続くまでだ。」
(息が出来ない……!こんな所で足を引っ張りたくなんてないのに)
そう思っても喋ってしまえば体の中に水が入ってしまうので迂闊な行動がとれないけど、このままでは意識を失うのも時間の問題だった。
それはゼアも分かっているから私の身を心配して水の渦を見ながら水瓶の破壊を行っていた。
しかし、ゼアの声が聞こえてきたが水瓶の破壊は難航しているらしく、声音からは焦りがにじみ出ていた。
「くそっ! 何で壊れない!? 早く……早くしないといけないのに……! 」
そんなゼアの反応を楽しむかのようにアクアリオは話しかけていた。
「あ、そうそう。何で暇つぶしをしていたか話してなかったよね。」
その言葉がゼノビアの癇に障り、ゼノビアの感情は焦りと怒りが混じっていた。
「うるさい! 先にお前から壊してやろうか!? 」
「出来るものならどうぞ。まぁ、目が覚めた時にまだ『その時』じゃないって気づいたんだよね。だから僕は人間が多く住む町で『試練ごっこ』をしようと思ったんだ。」
もうゼノビアはアクアリオの方を向かなくなってしまったが、それでも彼は話を続けた。
「僕だってこんな期間が長くなるなんて思ってなかったよ。皆で水瓶を壊してはい、終了!ってね。」
「だけど、この町の人間はとても面白い反応を示した。ちょっと窮地に追いやって『歴史の再現をして有名にはなりたくないか?』って聞いたら皆この貧困を喜んで受け入れたんだ! その日から面白い行動をずっと繰り返し彼らはしてるんだ。傑作だろ? 」
(最低……。何でそんなひどいことが出来るの? )
いや、彼らに意思はあっても感情は無い。クリーオスの時にそれを学んだのに彼が喜怒哀楽の表情を作って話すから勘違いを起こしてしまった。
(でも、クリーオスの時は『不安』という感情が彼を動かしていた。改めてアクアリオの言葉を聞くとその言葉全てに感情的に話しているように聞こえる。)
もはや、目を開け続けるのもしんどくなり途中から声だけで状況の把握をしていたが、その声だけ聴くとアクアリオはその行動に楽しさを見出しているわけでもなくただ純粋に『興味』だけで行動したのではないかと思う。
(彼の行動原理が分かったからと言ってこの状況は変わらない。だからといってこの状況を打開する策なんて思いつかない)
この魔術を解析出来れば出られると思うけど、そんな事をしたら息が続かずに意識がなくなってしまう。
(制限時間は私の息が続くまでだとしたら、意識がなくなったらそこでアクアリオの出す試練は終了してしまう。そんなリスクを負ってまで挑戦することは出来ない)
この際、私がどうなろうと構いはしないけど魔石が手に入らないのはゼアが困るだろう。
……もしも、この試練を達成出来なかったらこの旅は終わってしまうのかな?
(それは、凄く嫌だな……)
もっと、ゼアと色んな所に行きたい。
色んな景色を見て、美味しいものを食べて一緒に居られなくなる時まで旅を続けたい。
(歩み寄ってくれたからじゃなくて、私がゼアを大切に思うから。だから、こんなところで終わるわけにはいかないの! )
諦めたくない。そんな事を考えていると、魔力が体に流れこんでくる感覚を感じた。
『ハンナ、僕が手伝ってあげようか?』
魔力を通じて伝わってくる声の先は懐中時計に埋まっている綺麗な真っ赤なルビーからだった。
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