繰り返される歴史

 夜が明けて、早速目的地を目指して私たちは歩き出した。



「あれから思ったけど、ここから3日程の距離と考えると目的地は『ヒュドール』? 」



 凄い、当たっている。



 びっくりしていたのが分かったのか、ふふんと胸を張った。



「これでも、エヴィエニスの収める領地は把握しているから。」


「それでは、今からヒュドールの歴史のテストでもしますか? 」



 そういうと、少し顔をしかめて嫌な顔をした。多分ゼアは歴史の授業が苦手なのだろう。



「そういえば、ハンナは魔術講師の資格を取得していたよね。魔術だけでなく歴史まで教えるの? 」



 そこまで私の事を知っているなんて、と思ったけど生誕祭に呼ばれる人の事は予め頭に叩き込んでいたのだろう。



「そうですよ。歴史の発展に魔術ありなんて言う人もいるくらいですからね。僭越ながら歴史の授業を受講いただいても? 」




 そう言って、にっこり笑えば興味が出てきたのか話の続きを促した。




「その昔、過酷な水不足が問題とされていた小さな村だったそうです。困った村人達は毎日祈りを捧げているとある時、女神が降り立ち人々に幾つもの水源を与えました。」


「これにより村から町に、ただの町から栄えた町へとなったとされています。なので、昔の言葉で『水を生むもの』を表すヒュドールと名前が付いたとされています。」



 説明を終えるとゼアは胡散臭そうな顔をしていた。そんな顔はすると思ってはいたけれど。


「結局は神頼みじゃない。」


「まぁ、伝承ではこんな感じですけど所説は沢山ありますよ。元からあった水源を見つけ出したが今は有力ですね。」



 絶対にそっちだろうとゼアは呟いているけど、私は伝承の方を信じていたりする。


 そう言うとまた胡散臭そうな顔をされた。



「ハンナは私と同じリアリストだと思っていたのだけど? 」


「無いって言われている場所から水源を探すのって結構難しいんですよ。昔の話だから探知魔術だって使われていたとしても今よりは的確に探せないでしょうしね。それに、神様ではなくてもっと別の存在を女神と呼んだのかも知れない。―――クリーオスの様な。」



 探知魔術で調べて反応を示した広範囲の領地の中から私がヒュドールに目をつけたのはその理由もある。


 クリーオスは300年眠っていて最近起きたと言っていたけれど、ほかの魔石はもっと早く起きているんじゃないかと思った。



(あの最後の言葉も気になるしなぁ)



 同胞が変質しているってどういう意味だろう? 

 忠告って言っていたからいい方向には進まないのは分かり切ってはいるけれど。



 私の言葉に納得したのかゼアは頷いた。



「女神ではなくクリーオスのような存在を神扱いした可能性もあるのね。」


「その可能性は捨てきれません。なので、それを今から確かめに行きましょう。」







 それから3日が経ち、漸くヒュドールにたどり着いた。

 チラッとゼアを見ると態度に出したりはしていないが、明らかに疲弊していた。



(3日も野宿なんて気を張っただろうな)



 取りあえずは宿を取ろうと宿屋を探そうとゼアの手を取って歩き出した。



「何処に行くつもり? 」


「何処って、今日から泊まる宿を探すんですよ。」



 そう言うと、やっぱり否定の言葉が返ってきた。


「一刻も早く解決しないといけない。休んでいる時間なんてない筈よ。」



 ゼアは疲労も相まってか少し精神的に余裕が無いように見える。

 ただ休んで欲しいなんて言葉は突っぱねられると思ったので会話の切り口を変えることにした。



「宿を取ってから観光に来たと装い情報収集をしましょう。あ、先に休憩ですよ。その顔では旅行で来たようには見えませんから。」



 そう言って宿の看板が出ている場所を目指す。



 本当は出来るだけお金を押さえたいけど初めての旅で疲れたゼアに疲れを取ってもらわないといけないので、栄えている方にある宿に向かって歩き出した。



「前から思っていたけど、ハンナは頑固。」


「ゼアが無茶をしようとするからですよ。身体を壊して欲しくないから言っているってことは伝わっていると思いたいですね。」



 宿に向かって手を引いて歩いていた私はゼアが嬉しそうな顔をしていたなんて気付かなかった。







 二人部屋の宿を取ってから私達は各々のベッドに腰かけてからこれからの行動を決めることにした。


「まず、確認なのだけどヒュドールってこんな感じの町なの? とてもじゃないけど栄えているとは思えない。」



 此処に来るまでに町を観察していたけれど売っていた作物が少しの水でも育つような物しか売っていなかったし空気も乾燥している。


 この暮らしぶりをみると水源は殆ど枯れてしまったとみて間違いはなさそう。



「私が町を訪れた時は、水車が回っていて町の中央には大きな噴水広場があったんですよ。そこで売っていた作物とも随分と違っていますね。」


「ハンナが来たのはどのくらい前? 」



 その答えに3年ほど前だと答えるとゼアは手を顎に持ってきて考えるそぶりを見せた。



「この3年の間に水源が枯れた? でも、水問題を抱えた領土の話なんて聞いたことが無い。問題が長期にわたって解決していないのだから私の耳に入ってきてもおかしくない話なのに。」



 それは私も思ったことだ。

 この風景を見るまでは私は以前来た時の風景が広がっていると信じて疑わなかった。


 なぜなら、水問題なんてゼアの耳はおろかそれを解決するために動く魔術師が所属する魔術塔でもそんな話は聞いたことが無かった。



「私たちに話が入っていないのはおかしな話ですね。何か隠したい理由があるのでしょうか? いや、水問題の深刻さなんてこの町の人が一番よくわかっている筈なのに。」



 それから、もう一つ疑問に思っていた事を口にした。



「この町にいらっしゃるはずの領主様が見当たりません。前に来た時は毎日町に来られていると聞きました。私も遠目ですが見た事があります。」


「領主だからこの町に建てている屋敷で領主の務めを果たしているのかもしれない。タイミングが合わなかっただけじゃない? 」



 そう言われると理解はできるのだけど、どこか腑に落ちない感じがした。



「まぁ、この町を調べていたら会う機会もある筈。問題は何故、水源が枯れてしまったのかよ。」



 正直、この町の殆どの水源が枯れる理由が思いつかない。


 だって、私が来た時は少なくとも3つの大きな水源を感じ取っていたし、持て余すほどの水が3年で無くなるなんて。


 そんな大きな災害もここ最近は起こっていなかったしほかに理由は?



「少しこの町の水源を探ってみます。」



 そう言ってから探知魔術を展開し町の水源を探す。



 しかし、予想とは大きく外れた結果が出た。



「え、水源は枯れていない? 」


 私の言葉にゼアは驚いていた。


「異常は見られないの? 」



 そう言ってきたゼアの言葉に頷いた。


 私が昔感じた3つの水源は枯れてなど無かったがもう一つ、おかしな流れを感じた。



「水源は枯れていません。けれど、何故か3つの水源は噴水広場の方に流れていってます。」


「確実にそこね。この問題にクリーオスのような存在が関わっていると思う? 」



 そうゼアから聞かれて大きく頷いた。



「水源を移動するなんてまず人間では出来ません。この問題に絡んでいる事は間違いないでしょう。そして問題はあと一つ。」


「何故、町の皆はこの問題を黙認していたか? これはもう現地で確認するしかない。」



 明日の計画を予め決めて今日はもう寝ることになった。



 やっぱり、疲れていたのだろうゼアはベッドに入ってそのまま眠ってしまった。私も寝ようとしたがなかなか寝付けずにいた。



(何故だろう? 準備だってしてるのに、クリーオスの時のように解決できる気がしない)




 私の嫌な予感は当たる確率が高いってことは絶対にゼアには言えないなと思いながら漠然とした不安を抱えてその日は眠りについたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る