第2話 新しい妹

「…お前……髪の毛…どうしてん?」

「変かな?おかしい?」

 なずなの言葉にハッと我に返る。

「い、いや、びっくりしたけど……似合ってるで、うん。ちょっと短かすぎたから度肝抜かれた。でも似合ってる」 

 なずなが赤くなってまたうつむいた。襟足が妙になまめかしい。駿平は慌てて視線をそらした。

「なんでこんなとこ居んの?来てくれてって……まさかお前今日の合コン…」

「うん、私が頼んでん。駿ちゃんに会いたくて」

 えーっ。マジかぁ、まいったなあ。

「他の奴は?」

「別の店で合コンしてる。私のクラスに山下君の知り合いの妹が居って、それで合コンセッティングして駿ちゃん呼び出してもらった……」

 つまり合コンをしてやるから俺を呼べと言ったわけか。

「とりあえず座ろか」

 なずなはうなずくと席に向かった。後ろを歩きながらまた襟足に目がいってしまう。見るなって。

「なんかあったんか?」

 テーブルに着いてコーヒーを注文してからなずなに尋ねた。

「うん、あの……」

 なずなはコップの水を一息で飲み干した。

「駿ちゃんが出て行ったんって私のせいやろ」

 なずなは空になったコップを握りしめた。

「私のせいで家に居られへんようになったんやろ」

 泣き出す直前の顔。

「違うよ……って言うても納得せえへんか……うん。まあそうやな」

 駿平は諦めたようにそう呟いた。お待たせしました、とウエイトレスさんがコーヒーをテーブルに置いた。

「ごめん……私……」

 なずなが下を向いた。あーあ、泣かせてもうた……

「別に居られへんようになったわけちゃうで。高専行きたいと思ったんも本気やし、実際行って良かったと思ってるし。なずなが気にするようなことちゃうねん」

「でもっ……あの時私が……」

「いや、それ謝るより怒ってエエねんで、なずな。俺の方が責任感じて謝ることやねんから」


 なずなの父親と駿平の母親が再婚したのは駿平が中学2年生、なずなが中学1年生の冬だった。

 駿平の父親は駿平が5歳の時に交通事故で他界し、その後駿平と母親は、母方の祖父母の家で暮らした。働きに出た母親に変わって、祖母が幼い駿平の面倒を見てくれた。母親が再婚したいと言ったとき、駿平はホッとした。母がこの先の人生をともに歩める人を見つけてくれたのだとうれしかった。 

 再婚相手の三輪さんは優しそうなおじさんだった。父親の記憶がほとんど無い駿平にとって三輪さんは、こんな人がお父さんだったらいいなと思う理想のお父さんといっても良い、そのくらい感じが良くていい人だった。

 三輪さんも奥さんと死別していた。三輪さんの奥さんはなずなが2歳の時に乳がんで亡くなった。三輪さんの家もやはりなずなの祖母がなずなの面倒を見てくれたそうだ。だが4年前なずなが10歳の時にその祖母も亡くなってしまった。駿平の母親は学童保育で働いており、なずなとはそこで出会った。三輪さんより先になずなと親しくなったわけだ。その後三輪さんとも仲良くなって、三輪家へ出入りするようになり再婚に至った。

 駿平の気がかりは思春期の女の子が新しい母親を受け入れてくれるのか、というところだったので、母親と本当の親子のように仲良く話しているなずなを見て安堵した。なずなは幼い頃から家事を手伝い、父親の世話もしてきたため年齢よりも大人に見えた。しっかりしているし可愛くて良い子だった。 

 三輪さんと駿平の母親は駿平達が暮らしていた祖父母の家の近くに新居を構え暮らし始めた。

 突然出来た一つ違いの妹に初めはどう接して良いのかわからず戸惑った駿平だったが、なずなは駿平に懐いた。くったくなく「駿ちゃん」と呼び、笑顔で話しかけてくれる。そんななずなに駿平もいつしか笑顔を返すようになった。家族関係は良好で賑やかになった食卓ではみんな笑顔が絶えず、一家団欒ってこういう感じなんだな、と駿平もなずなも幸せを感じていた。

 そんな時、あの出来事が起こった。

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