ぺんぺん草
大和成生
第1話 合コン
「じゃあ7時に集合な」
同じクラスの山下がそう言って今日の合コンの店の名前と簡単な地図が書かれたメモを渡してきた。
「合コンなあ……俺別に。他に行きたい奴おるんちゃう?」
ため息が出た。正直あんまり乗り気ではない、というか行きたくない。
「駿平が居らんと女子が帰ってまうかも知れんやろーっ」
山下がほっぺたを膨らませる。女の子なら可愛いけどお前がやってもキモいだけやっちゅうねん。
「なんでやねん。俺あんまり盛り上げたり出来ひんで」
「居てくれるだけでエエねん。お前をご指名の合コンやねんから」
ご指名?どういうことや。山下に聞こうと思ったが、奴はすでに「頼むでーっ」と手を振りながら走り去っていた。
合コンなあ……秦野駿平は再度ため息を付いた。
高等専門学校(高専)に入学して早一年が過ぎた。1年生の間は結構楽だった。授業も普通の高校に比べて早く終わるしバイトもし放題。生徒ではなく学生と呼ばれ、高校というより大学に近い感覚だった。服装も自由だし校則に縛られることもない。難があるとすれば女子の数が男子に比べて圧倒的に少ないということか。高専病なんて言葉もあるくらい、高専男子は女子に飢えている。そのうち女子なら誰でも可愛く見えてくるようになるらしい。
バイト先にも女の子はたくさん居るし、正直駿平はそこまで女の子に飢えてはいなかった。むしろあまり興味が無い。なのに合コン。山下の執拗な誘いを断れず結局行くはめになった。
しかも地元って……
今は寮生活である駿平の実家は、同じ県内だが電車で1時間は掛かる場所だった。今回の合コンはその駿平の実家の近所であるという。
なんでわざわざそんな離れた高校の子と合コンなんかするんやろ。運良くカップルになれたとしても高校生カップルにしては距離が離れて過ぎているような気がするが。
まあどっちみち俺には関係ないけど。
高専は2年生でクラスが決まるとそのまま卒業までクラスメイトが変わることは無い。今同じクラスに女子は2人。山下達が合コンしたくなる気持ちもわからんではない。でも高専の赤点は60点だ。レポートや提出物も多い。結構勉強が大変なのだ。女にうつつを抜かしている暇はないと思うのだが。
駿平は3回目のため息とともに帰り支度を始めた。
電車に乗って集合場所に到着したのは7時を少し過ぎた頃だった。
めんどくさー
店の外には誰も居ない。もうみんな中に入って居るのだろう。
引き戸を開けて中に入り山下達の姿を探した。見当たらない。男5人女5人で集まると聞いていたのだが、見た限り団体客はいない、というかここ、ただの喫茶店なのだが……
「駿ちゃん……」
誰かに呼ばれた。声の方に顔を向けるとほぼ坊主頭の女の子が立っていた。
「……なずな? なずな……か?」
一瞬誰だかわからなかった。髪型が……イメチェンというには大胆すぎるカットだ。よく見ればベリーショートと云うやつだろうか、坊主頭というには少しおしゃれに思える。
「来てくれたんや。ありがとう」
なずなは少し恥ずかしそうにうつむいた。こうやって見れば確かに女の子だ。
三輪なずな。駿平の妹。3年前に出来たばかりの妹が目の前に立っていた。
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