〜30代後半のおっさん、戦時中に救った異人種の少女に求婚され続ける〜

わたしロゼおば★(ピンクマン)

プロローグ

ーーはぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・

鳴り止まない銃声。罵り合う怒号。バチバチと燃え上がる建物。意識が朦朧とする腐敗臭をなんとかくぐり抜け、前線で頑張っている先輩や隊長の為、私は補給物資を運ぶ。


「おい!補給班はまだ来ないのか!もっと装備を寄越せ!」

「はぁっ、はあ。遅れて、申し訳、ありません。中村、到着致しました!」

「あっ!!隊長!補給班が来ました!!中村っ、頼めるか?」

「はい!」

ここで戦っているのは私よりも若い、勇気ある人ばかりだ。だから、そんな彼らのためにも、私は働かねばならない。妻や、娘のためにも、もっと、もっと働かなければならないんだ。

ーーはァっ、はァっ、はァっ、はァっ・・・

「うわああアアアアっ!」

「ぐわああああアアア!」

「ううううう!『異種族』共が!絶対に殺してやる!!」

だが、そんな勇気ある人でも、死んでしまう。努力を嘲笑うように異種族のファンタジーのような力は私たちの防護服を油のように燃やしてくる。せめて犠牲を出さない為にも、私たちが活躍しなければ。なんとかして届けるんだ。届けるんだーーー

「総員!!壁の裏へ大至急避難!!繰り返す!!総員!!大至急避難!!」

「「「!?」」」

「前方より、高エネルギー反応あり!!何かをするつもりです!!退避してください!!」

囂々と地面が揺れ、相手側の陣地に目を向けることを許さない大きな太陽が見えた。

「退避ー!!退ひーーー


ドオオオオオオオオオオオオオオン!!


ーーーーーーーーーーーーーー


うぅ、ここは、どこだ・・・?

体はっ!・・・なんとか五体満足だった。血流が行き届いていないときの痙攣が全身に残っていて、気持ち悪い。

「う、うぅ・・・」

あの衝撃で吹き飛んだ先が建物の中、なのだろう。外の爆撃音があまり届いてこないし、あの変に明るい夜空も見えない。

「ぉ、あ、報告、しなきゃ。」

体をなんとか転がし、リュックサックの中の通信機を取り出し、大きなブザー音を鳴らす。

すると、部屋の奥から灯火、足音、ザワザワとした声が聞こえた。


しまった。ぞわりと背が冷たくなる。通信機を今更止められない。だが、大丈夫だ。こんな時のための訓練だっただろ?引き金を引く心づもりはできてるんだ。そう言い聞かせながら、リュックサックに備えている拳銃を取り出し、深呼吸をする。


『kokokarananikakikoeta,tabunnaiturada・・・』

『kowai、okaasannkowaiyo』

『daizyoubuyo、watasitatimotyanntotatakaerunndakara』


聞いたこともない言葉だ。心が締め付けられて、頭が真っ白になって、拳銃を持つ手が震えてきた。やめよう、そうだ。連絡機を置いて、物陰に隠れてやり過ごそう、そうしようと思って、這いながら物陰に向かった途端、


ーーーピピピピピピピピピピピピピピ!!

「こちらOO支部です!どうされましたか!応答お願いします!」

『「!?」』

これ見よがしと連携された通信機、そして拳銃を持った私の姿が、あらわになった。

『uwaaaaaaa!!』

『Machitarian!?』

「っ!?『異種族』共!?すみません!本部に連絡をー」

見たことない髪、長い耳、そして彼らが大事そうにする子供、何もかも未知なはずなのに、親近感を抱いてしまう。

あまり思いたくないが、

・・・人間とそっくりな体格をしていた。

すると男が人差し指を私に向け、

『ugokuna!』

と声を荒げて威嚇する。その剣幕に負け、私は動けなくなる。

「っ!何をするつもりですか!?大変です!ここに私たちの仲間が居ます!」

『mama!kowaiyoo!』

『anata!kokokaranigemasyou!』

「そこの位置情報がわかりました!待っていて下さい!必ず援軍を向かわせーーーー

バリバリィ!!

通信機が男の人差し指から飛んだ何かによって壊された。そして私のもとに近寄り、胸ぐらを掴んで、指先を脳にぐさりと突きつけてきた。

「ぐっ!」

『haa,,,haxa,,,。oi Machitarian、ugokunatteittayona、、、』

『mouzyuubunndesyo!!anataotituite!!』

『papayameteeee!!』

な、なんだ?男のもとに長い耳の女と子供が近づいていがみ始めた。

『damedayopapa!!konoikimonogasinnzyauyo!!』

『soreniwatasitatihananimosaretenai!anatamootituite!!』

『dameda!koituwositomenakya、owarerukamosirenainnda!』

少しずつ男の力が弱くなる。今のうちだ!

『ut!!』

握っていた拳銃の平で腕を殴り、私の上半身の自由を手に入れた。次は下半身をなんとかしないと。

大丈夫だ。訓練所ではそれなりにいい結果だったんだ。大丈夫、私は上手に立ち回れる。

引き金を引き、私の力を見せしめる一発を試みた。


パァン!!


鋭い銃声の後、男はドン!と地面に大きな音を鳴らしてのけ反った。だが、足が重い。

すると、腕にくる痛みの代償とでも言うように、血生臭さがゆっくりと部屋を覆う。


大丈夫だ。きっと。鼻血なんだ。絶対、そうなんだ・・・。


『『・・・』』


隣で叫んでいた子供と奥さんが固まっている。


だ、大丈夫、大丈夫だ。・・・私の銃に驚いてしまったんだ。そうに違いない。


自分の足をずりずりと引き抜き、彼を確認した。


そこには、頭を、射ち抜かれた、男の親が、倒れていた。


「あ、ああ」

『『・・・』』

違う、こんなはずは。ただ、威嚇だったんだ。

「あああああ」

申し訳ございません奥さん。私は、あなたの旦那さんを殺めてしまった。

ごめんね、おじさんは、あなたのお父さんを殺してしまった。



『pa,papa・・・』

『mama、papa、nemuttyatta。』

『papa,okite。』

重い空気の中、子供が恐る恐ると父に寄り、声をかける。

『papa。yakusoku、madadekitenai』

『OKITE、okiteyo!!』

返事をしない父に対し、ますます子供は声を大きくする。

『papa、papa!!』

それでも返事をしない。返事ができない。もう、返事なんかしない。返事なんか、できない。

『mamamo!papawookosanakutya!!』

知っている母に訴えても無駄だ。なのに、子供は自分の父を呼ぶ。

『uwaaann!!papa!papaaaa!!』

『・・・omae』

すると、母が動き出した。

『omaera、 Machitarian,no,seida・・・』

父のために、やるべきことは、罰を与えるのだ。

『aaaaaaaaa!!!』

母が手に力を込め、何かをぶつけようとした瞬間、


パァン!!


「おい!大丈夫か!!」

援軍が目の前の仲間を襲う化け物を討ち、助けにきた。

『iyaaaaaaa!!』

「この『異種族』!ガキだ!」

『hanasiteee!!』

「このガキに仲間がどこにいるのか吐かせよう!」

「ああ、加えて、放心状態の彼も任せられるか?」

「「了解!」」



その後は非常に淡白だった。

私は医療チームに手厚く救護を受け、今回の報告を援軍と共に行った際、子供の行末を知った。

子供は『異種族』の軍について何も知らなかった。それに、健康な身体を持っていたため、研究の手伝いに加えられたことを知った。

今でも、捕虜たちと加えてとぼとぼと歩く首輪をつけられた子供の背中を忘れられない。

私は、未来ある子供の未来を奪ってしまった。その罪は一生無くならない。

戦場で犬死になんか、許されないだろう。

私はもう、銃なんて持ちたく無い。人の命を、握るのはもう、いやだ。


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