某クラフト要素
「……ここが作業室?」
そう言って中に入った場所には、ポツンと小さな箱のようなものが置いてあるだけだった。
『そうみたいですね、なんていうか………』
「思ってたんと違う」
作業室って……もっとこう、作業台みたいなのとか、布を織る機械とかが置いてあるような場所だと思ってたんだけど……
「もしかして、この世界の作業室ってみんなこういう物だったりするの?」
俺がそう訪ねると、ナビはすぐさま否定した。
『んなわけないでしょう? 普通に作業台とか、道具とか使って物を作るのが普通ですよ』
「まあそうだよね~」
そう言って俺は、箱の方に近づいてく。
それにしても、この箱……どっかで見たような形してるよな?
箱の上部には区切られたマス目が置いてあり、側面にはまるで工具のような彫刻が彫ってある。
なんていうか、まるでクラフト要素がある四角い世界の世界的人気ゲームの作業台みたいな形してるよな……まさか。
「これって、もしやあのクラフトシステムが採用されてる?」
『どうしたんです? ブツブツさっきから言って、気持ち悪いですよ』
「うるさい」
俺はそう言ってから、少しの間思案する。
もし、あのゲームのシステムが採用されているとしたら……とりあえず試してみるか。
そう思い、作業室を出ていくつかの素材を取りに行く。
「よし、これだけあればいいかな?」
そう言って用意したのは、樽一杯に積み込まれた素材の山だった。
「まあ、使い方は分からないけど……とりあえずやってみるか」
そう言って俺は、某ゲームのように素材をマス目に配置しようとする……しかし。
「あれ? 入らない?」
『そりゃそうでしょう、こんな小さなマスに、その大木が入るわけないでしょ?』
そう、ナビに突っ込まれてしまった。
「む、そりゃそうだけど……」
『とりあえず、こんな使えない設備は後回しにして、別の事をしましょうよ。例えば、ハンモックの残骸を使って簡易的な服を作るとか』
「うーん……そうした方がいいのか、な? ん?」
そう言ってその場から離れようとした俺だったが、ふと作業台の上面に小さなボタンがついていることに気が付いた。
「何だこれ?」
本のようなマークがついたそのボタンを押してみると、突然目の前に某ゲームのレシピ集が現れた。
「わわ、何だこれっ⁉」
『ひゃっ……マスターこれなんですか⁉ ってか、なにしたんですか⁉」
そう言って騒ぐナビを無視して、俺はレシピ集へと目を向ける。
レシピには、おそらく使うであろう素材と、その完成品が表示されていた。
「これ……もしかして」
某ゲームなら、ここで選択してもクラフトすることができたはず。
そう思い俺は、レシピの一つを指で押す。
押したレシピは、草で作られた上半身のシャツだった。
「……ぽちっとな」
レシピを押したその瞬間、レシピは消え去り代わりにマス目に選択したレシピ通りの素材が置かれていた。
「お、おお……」
『は、入ってますね?』
「そうだけど……ここからどうするんだろ?」
素材はマス目に入った、しかし肝心のクラフト方法がまだ分からん。
そう思ってふと先ほどのレシピのボタンの反対側を見る。
「あ、ボタンある」
そう、先ほどのレシピに似たボタンがあった。
ただレシピのボタンと違うのは、金づちとのこぎりが交差して描かれているという事だ。
「いかにもだよなぁ」
そう思って、俺はそのボタンを押した。
スススーと、木のこすれるような音が響く。
「……どうなる?」
『何も起こりま……ま、マスター素材が、素材が空中に浮いてますよっ‼』
一瞬の間をおいて、ナビの言う通り素材が空中を舞う。
そして、空中で舞う素材が集まり……気が付けば一着の服へと変わっていた。
「おお、凄い……」
そう言って俺は、できたてほやほやの服を手に取る。
草で作られているから、まだ簡素なものだが……思った以上にしっかりした服になっている。
「……まあ、肌触り良くないけど」
『そうですね。まあ所詮加工一切してない草で作った服ですから』
「そうだね……でもまあ、使い方は分かった」
そう言って俺は、作業台を見た。
「なあ、ナビ」
『なんでしょう?』
「ふと思ったけど、これって普通にチートだよな?」
『まあ、そうですよね』
そしてついでに、俺はナビと思っていた事を共有したのだった。
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