嵐の後、女の子を拾う

 次の日には嵐はおさまり、俺は甲板にて背伸びをした。


「いやー昨日は凄い雨だったなぁ……」


『そうですね~本当、もし身体があったら滅茶苦茶に吐いてしまっていたでしょうね~』


「確かに、昨日凄い揺れたからな~」


 そんな話をしながら、俺は【設備管理】を起動させ壊れた個所が無いかと確認をする。


「……うん、何処も壊れてないっぽいな」


『あら? それは良かったです。昨日の嵐で結構物が飛んでたみたいでしたし、壊れてないのは運がいいかもしれませんね』


 ふと海を眺めてみると、海の上には折れた木やら、何やらが浮かんでいるのが見えた。


「……あれ? あれって船のパーツじゃない?」


 そう言って俺が指さした先に浮かんでいたのは装飾が施されている、木の板だった。


『ん? ああ、あれは……おそらく舵のパーツですね』


 そうナビが言った後、ゆっくりとその舵は水にさらわれて沈んでいってしまう。


『マスターよく見たら船のパーツみたいなのが海の上に浮いてますよ! ほら、あそことか……あっちも!』


 そうナビに言われて見てみると、確かに船っぽい木材が浮かんでいるのが見える。


「……もしかして、昨日の嵐で沈没した船だったりするのか?」


『そうかもしれませんね、ここから見る限り壊れて間もないみたいですし……』


「このパーツ量だと、ここで沈没したんじゃなさそうだ。近くで沈没して、風で幾つかの破片が飛ばされてきたって感じなんだろうね」


 なんて言いながら海を見ていると、ふと木片の中に別の物が浮いているのが見えた。


「あれは……人?」


 そこにいたのは、白い髪の毛の人だった。

 遠くからでよくわからないが、子供みたいに見える。


 子供は、波にゆらゆらと揺られてゆっくりと沈んでいく。

 

「……あっ、まってッ‼」

『あ、ちょっとマスター何してるんです⁉』


 俺は、思わず海へと飛び込むと、子供の方へと泳いでいく。

 だんだん海へと落ちていく子供……俺はその子に手を伸ばすと抱きかかえ上げる。


 いやーこうして、息をせずとも潜水できるのは本当にスケルトンボディ様様だよ。


「……よし、確保」


 そう言って子供を抱きかかえ上げた俺はゆっくりと海面へと浮上する。

 それにしてもこの子よく見たら、女の子だ。


 歳はまだ9歳か10歳かそれくらい。


 ……嵐で沈没した船に乗ってたんだろうな。 

 子供一人で乗ってるわけないだろうし、ってことは両親は……いや、今はそれよりこの子を助けることに集中しなきゃ。


「よし、後は船に上がれば……」


 そう思って、船(俺)に近づいて行って俺は一つの問題に気が付いた。


「あれ? 上る場所どこだ?」


 そう、船(俺)には船上へと上がる場所が存在していなかったのである。


『今更気が付いたんですか、まったく』


「……ナビは気が付いてたんだ」


『ええ……まあ、いう前にマスターは海に飛び込んでしまいましたが』


「うっ……そっか」


 そう言われ、思わず呻いてしまう。

 これは、戻る用意をしてから海に飛び込むべきだったか……そう考えている俺に対し、ナビの答えは少し違った。


『……けどまあ、マスターの判断は正しかったと思いますよ』


「え? どうして?」


『だって、あのまま降りる用意をして海に飛び込んでいたらその子は波にさらわれて、きっともう見つかることはなかったですよ。そう考えるとマスターの行動は正しい選択だったと思います』


「そっか……そうか」


『ま、そう言う事なのであまり、後悔しなくていいですよ。……それより、とりあえず早く陸に上がる方法を考えましょう。早く陸に上がって処置をしなくては、折角助けたその子の命も失われてしまいますからね』


「そうだね」


 確かに、ナビの言う通りだ。

 早くどうにか陸に上がらないと……体も冷えるだろうし。


「だけど、どうしたものか……」


『マスター、私から一つ提案があります。【船体改造】を使うのはどうでしょう?』


「【船体改造】? ……あ、そっか。船体改造使えば、登り降りできる設備を作れるかもしれないか」


 ナビにそう言われ【船体改造】を起動させた……しかし、そこでふと手を止めてしまう。


「待てよ【船体改造】って素材必要だったよな……素材なんて今ないぞ?」


 俺がそうつぶやくとすかさずナビが『ありますよ』と言った。


「え? ある?」

『ええ……ほら、周りを見てくださいよ』


 そう言われて周りを見渡す。

 そこには、船の残骸が至る所に浮かんでいたのだった。


 ……

 …………



「【船体改造】……よし、できた」


 ナビのアドバイス通り残骸を使って、俺は船にはしごを取り付けた。

 簡易的だが……まあいいだろう。


『マスター』


「何?」


『どうです? 私のアドバイス、的確でしたでしょう?』


 そう言うと、ナビは続けてこう言った。


『これで私は有用なスキルだってわかったでしょう?』


 ああ、あの時の事まだ根に持ってたのか。

 まあでも、確かに今回は本当にナビの冷静な指摘のおかげで助かったか。そう考えると……使えないわけじゃない……か。


「……まあ、ちょっとだけ見直したかな」


 そう言って俺は、できたてほやほやのはしごを女の子を担いで登ったのだった。

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