閑話「ボクサーパンツ2」
明日まで新エピソード投稿できないと思うので以前書いて没になった閑話を投稿します!
◇
ボクサーパンツを見て、思い出したあの日のことだ。
あれは高校一年の冬のこと。
私は先輩にお誘いをいただき、初めて家にお邪魔していた。期待と不安、そして数ミリの背徳感を抱えて玄関を潜る私の体。事前から親はいないからと言われていたけど、先輩の家に対して「普段からお世話になっております。彼女の栗花落です」と丁寧に挨拶していたことを先輩に馬鹿にされてむすっとしていたのがまるで昨日のよう。
私と先輩だけの空間。もちろん最初は飲み物を入れてもらい、買ってきたお菓子を一緒に食べ、暇になったら談笑し、そしてアニメや映画を見て数時間。
当時はエッチのエの字も知らないほどに純粋すぎた私は何が起きるかなど予想もできていなかった。
この時の恋愛観といえば全て小中学生の時に読み漁っていた少女漫画そのものだ。子供はキスをすればできると思っていたし、それ以上のことはないとさえ思っていた。
純粋と言うかもはや地雷ですらある。
初めてキスを済ませていない潔白な唇をなぞりつつ、これからどんなふうになるのだろうと妄想をする時間ばかり。
映画を見てひと段落をして、そのあとはスマホ片手にまた談笑。
一緒に写真を撮り、胸がどんどんと高なっていくのが分かりながらそれを楽しんでいた。
すると、先輩は席を外して部屋には私一人となった。
まだ慣れていない部屋の景色を一望する私。
立ち上がり写真や賞状、本や衣服。
掃除もあまりしていないであろう少しだけ散らかった部屋を散策したどり着く頂があった。
半開きになったクローゼットの半分ほど開いていたタンスだ。
目が行った。
何が入っているのだろうか気になって近づき、中身を覗く。
覗いても若干暗いせいで中身が見えない。
顔を近づけるも暗黒は暗黒、闇は闇で変わらない。
埒があかない。
ダメなことをしているとわかっていたが罪なことにタンスに手を入れてしまったのだ。
もちろん肌触りは布。
掴んでも布。
きっとTシャツか何かだ。
そう思って引き抜こうとした瞬間。
先輩が戻ってきて目を背けながら引き抜いた。
何かはわからない。
掴んだまま背中、制服のスカートの後ろに隠し、目を合わせた。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
「えっ……あ、いや別に、そんなこと!」
もちろん、動揺している私は分かりやすかった。
クローゼットを背に、後ろへ後ずさり。
ぶるぶるとまるで小鹿のように下がっていくのは私から見ても明らかにおかしいと分かっていた。
「そ、そうか……」
何か察していたのかは分からなかった。
ただ、そんな私の姿を見るなり先輩はすっと目を逸らしてお茶が入ったコップをテーブルの上に置き始める。
「……す、すみません」
「あぁ、お茶いるか?」
置いたコップを手に取り、私を見ながら渡そうと手を伸ばしてくれる。
右手を上げようとするも、手にある何かを感じ、すぐさま左手を差し出した。
「大したお茶じゃないけど」
「い、いえ! ありがとうございます!!」
受け取って喉へ流し込む。
そんな中、もう一度気になったのか。
「—―なぁ」
先輩は再びこっちを見ながら尋ねてきた。
「は、はい⁉」
「……ひ、左……あぁ、いやなんでもない」
「っえ」
「ううん、気のせいかなって。だからなんでもないよ」
「っは、はい」
心臓がバクバクと音を鳴らす。
ほっと肩をなで下ろすのと同時に、心にはぽっかり穴が開いた。
どうしたのか聞かれてもなんでもないと答えて、それからまた時間が経ち家に帰った。
挙句、家に帰ってから気づいた。
手に持っていたそれは先輩のパンツだった。
ボクサータイプのMサイズのパンツ。
もちろん、元には戻した。
先輩に一報入れずにやってしまったことがあまりにも恥ずかしすぎることで何もいえないことを自らわかっていた。
その真相はまだ私の心中にしまってある。
◇
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