第14話「丸焦げのオムライス①」


つゆり『先輩、明日のクリスマスの日に私の家来ませんか?』


はじめ「もちろん! 待ち合わせはどこにする?」


つゆり『終業式の後、学校から一緒に行きませんか? 地下鉄で数駅なので!』



 あれは高校二年生のクリスマスのことだった。




 冬休み。

 十二月二十五日の終業式の後、俺は彼女が住んでいる家に向かうことになった。


「ふぅ……ようやく、冬休みかぁ」

「おぉ、兄弟!」 


 俺の肩を叩いてきたのは高校の時に仲が良かった友達、西塔さいとうだった。西塔とは高校一年生からの仲で、同じ帰宅部として仲良くしている友達の一人。身長は俺よりも高く、それでいて体格もよくて大柄。のわりにアニメ好きで超絶オタクな一面を持ち、ラグビーに年がら年中勧誘されているおかしな男だ。

 

「ようやく休みだなぁ~~あ、ていうか今年は来るか?」

「いや、今回は無理だよ」

「っちぇ、そっか哉はもうこっち側じゃないんだなぁ~~」


 こっちと言う意味は言わずもがな分かるだろう。去年まで、というか去年しかなかったがとにかく今までは俺も恋人などできたことがなかった。

 クラスで恋人たちが浮かれる中、小人がいない者同士で傷をなめ合うイベントを行っていたのだが、今年の俺はそんな悲しきイベントからおさらばした。


「くっそ! 何が一目惚れだリア充め!」


 バシバシと大きな手を使って背中を叩いてくるがなぜだか心の余裕がある俺からしては痛くも痒くもなかった。


「俺を叩いたって彼女はできないぞ西塔」

「うぐっ、その言いようマジでむかつくなぁ! 何がむかつくって何も言い返せない正論ってところがだよくそ!」

「はははっ。んま、俺もあの前の日まではこんなクリスマスになるとは思ってなかったよ」

「くぅ~~! 悔しい、あの時俺が決勝点決めてたら惚れてたかなぁ」

「馬鹿言え、お前は卓球だっただろ」

「お、おい、卓球については思い出させないでくれや」


 頭を両手で抱えながらぐるぐると回し始める西塔はというと、サッカー経験者だったという理由から人数合わせでサッカーに生かされた俺とは違い、体育館で卓球の試合を任されていた。


 大柄な体格ながらもその腕から繰り出される巧みなカーブショットで決勝まで一直線—―なんて夢物語なことは起きず、一回戦で敵クラスにぼろ負けを喫したという。


 あの時はわんわんうるさかったから背中を一生懸命擦ってあげたが、隣でちょっと笑ってしまったことは墓場まで持っていくつもりだ。


「まぁ、にしてもどんな巡り会わせなんだろうな。あの芋っ子と哉って」

「俺にもわからん。ていうか、名前は栗花落な」

「ふぅ、彼女ために訂正するとはさっすが~~おあつい」

「うっせ」

「でもよ。なんであんな地味目な子と付き合ったんだよ? 正直、哉なら顔はイケメンだし、服もいいの買えばモテるだろうに」


 恥ずかしながら突き飛ばすと急に真面目な顔でそんなことを言ってくる。あまりにも唐突なことで余計に恥ずかしくなってしまいつつ、少しだけ逡巡する。


「え、俺ってかっこいいの?」

「かっこいいと言えば嘘になる」

「どっちだよ」

「いや、まぁ、なんかこう雰囲気イケメン以上にはかっこいいかなって」


 逡巡は意味もなく、俺の純粋な心は続きの一言で打ちのめされた。

 ただ、俺自身も栗花落と付き合ったことの理由はないに等しい。

 今でこそ、彼女いいところを知ったから好きになれたが当時としては全くない。まさかクリスマスまで一緒になると思ってなかったし、


 強いて言うなら、俺のことを好いてくれたからと言うのが最もだろう。

 サッカーをしていた時、一緒に出場していた比較的陽キャな恋人のいる人たちにも茶化されたというのもあるし、それに後輩って言うステータスに憧れたっていう原因もあるだろう。


 我ながらくだらない理由だ。


「はいはい、そういうお世辞はやめてくれ」

「まぁ、実際に一部の女子から人気があるのは本当だけどな」

「おい、どうせそれもお世辞だろ?」

「残念、意外とほんとでした」

「残念ではないんだけど……ま、俺には栗花落がいるからそっち向けたりしないけどな」

「……恵まれてるのにその言い方はなんかむかつくな」


 仲のいい友達とどつきあい、そしてじゃれ合い。

 そんな中、掃除中の女子生徒から「早くどけて」という最もな注意を受け、俺と西塔は学校を後にすることになった。




「んじゃ、俺はここで待つから」

「あいよ。さっさと幸せになっちまって爆発しろ」

「どっちなんだよ」

「どっちもだ」

 


 玄関で靴を履き、スマホを取り出して立ち止まる俺に対してありきたりな捨て台詞と変にほめているかのような言葉を言って去っていく。

 そうして、俺は栗花落がくるのを待つことになった。




 付き合ってからかれこれ二ヶ月と少しが経ち、デートもほぼ毎週行っていたことから俺も徐々に彼女に惹かれ、心を奪われていた。


 そんな最中、不意に唐突にやってきたイベントが彼女の家に行くと言うもの。


 よく考えてみれば世間はクリスマスという行事で盛り上がっているし、こと日本で考えてみればクリスマスというのは恋人同士が一夜を共にするイベントだ。


 もちろん身分が高校生であり、未成年だから大人なホテルで一夜を過ごすなんてことはなかったが夜まで遊ぶのは普通だ。


 クラスのカップルたちが湧き、非リア充の者たちは悪態をつき傷を舐め合う日でもある今日、今年からカップルの仲間入りを果たした俺も何か考えていたのだが急に来た彼女からのメッセージに驚きを抱きながら、内心としては先を越されたという感覚に緊張を隠せなかった。


 今日はクリスマス。

 日本中、ほとんどの人間が喜ぶであろう冬の一大イベント。


 そんな日に彼女の家に行く。

 それも初めてできた後輩の彼女の行ったこともない正真正銘初めて上がらせてもらう家だ。


 緊張感が固まることを知らず、心臓をドクドクと鼓動を強める。

 初めて栗花落とデートする日も少し緊張したが今日は色んな感情が渦巻きつつあるのかそれ以上に緊張感があった。


 それと、加えるのなら期待感も。


 付き合って二か月。

 手をつなげるようになったがまだその先はない。

 何かあるのではないかと言う、俺も男としての当然の期待もある。

 

 うん、したい。

 一歩先を。


「って、何考えてんだ後輩で……」


 あまりにも飛んでいた想像を頭を振って振り払うとすぐに声を掛けられた。


「っせんぱい!」


 ふわふわと揺れるボブカットの髪の毛、眼鏡の奥、前髪の間から見えるエメラルドブルーの輝く瞳。

 まるで犬のように、嬉しそうに飛び跳ねる垢ぬける前の栗花落が俺の前に現れたのだ。


「お、それじゃあ行くか」

「はいっ!」





「……」





あとがき

 過去編が一番ラブコメしてる気がする。


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