第10話「本心①」
まえがき
今回、真面目に文字数が膨大な量になってしまったので分けています。結構ぶつ切りになってしまっているかもしれませんが、ご了承ください。申し訳ございません!!
◇
「馬鹿言うな、何言ってんだよ俺」
一方、その頃俺はリビングのソファーに座り頭を抱えていた。
理由は言わずもがな、さっき勢いで言ってしまったことについてだ。
ザーザーと鳴り響くシャワーの音を聞きながら、今もそこにいる栗花落を感じ、これが夢ではないことを改めて実感する。
「……状況がぐちゃぐちゃすぎてやばい」
栗花落にあんな顔されたら俺もうち開けないわけにはいかなかった。この前まで、赤の他人と同然に接してこられて俺としても彼女に対してはあまりかかわらないようにしていこうと決めていた。
もちろん、未練とか後悔とかはある。
でも、彼女、
もちろん、俺も今更関係を修復しようとは思っていない。
ただ、言いたいことも何も言えず、彼女を手放してしまったのは悔しかった。
他の感情よりもそれだけが気がかりだった。
受験期という理由ですべてが許されるのならだれも苦労しない。何も伝えようとしなかったから壊れたんだ。
まだ未熟だったから、今ならよく分かる。確かに地獄だった日々だけど、それでもスマホでメッセージを送るだけでいいだろう。
たった数分、いや一分、もっと言えば数秒間の返信すらしようともしなかったんだから。
まずはそれを謝りたい。
今なら分かる。
俺がどうしても次の恋愛へ踏み出せなかったのはそれが理由だと思う。
だからリセットとは言わない。
でもこの未練がましい悔しい思いは払拭したい。
それができれば一歩前に進めると思う。
でも、でも。
うまく言えないけど。
やっぱり待ちに待った瞬間だからこそ、緊張感と言うか、不安感というか、それがまったく晴れなかった。
長い間。こびりついて消えない――まるでカビのように体を覆い包んでいくようで。
だが。
「ふぅ……」
前かがみになり、額に両手をつけてため息を吐いた。
だが—―、今日。
言わばこれは千載一遇の
一生ぬぐえないはずの後悔がこうして、拭えるのかもしれないチャンスがそこにある。
顔を見て感じたんだ。
腹を割って話せるのは今しかないと。
栗花落もどこか言いたげな顔をしていて、答えてくれているようで。
最初こそ、そうではなかった。
気まずそうに俺を見て、そして気にするなと思っていたのだろう。
きっと本心ではないだろうけど、それでいいと俺も思っていた。
彼女と再会した日はただ裏方になろうと決めた。
それは事実だ。
ばつが悪そうに見つめてくる瞳。だからそう思った。
でも、今は違う。
一泊して何かがあったわけではないと思うけど、瞳に映る何かが俺には見えた。
だから言った。
「~~~~でもぉ、くっそぉ」
だが、情けないことに心が追い付いていなかった。
彼女から告げられた謝罪に思うところがあって、俺もと口にしていた。
逃げたい、今すぐ消えてなくなりたいくらいだ。
―――ガサ。
そんなことを思っていると浴室、脱衣所のほうから音が聞こえてきた。もちろん、毎日のようにこの家のこの部屋の風呂を使っているから分かる。これは浴室の扉を開けた音だった。
さっきから何かやけに静かだなとは思っていたが、どうやら栗花落が風呂を上がったらしい。
タオルで体を擦る音がうっすらと聞こえ、すぐにドライヤーの音が部屋全体に響き渡った。
外の音も、心臓がバクバクと鼓動する音もそれによってかき消されてしまい、俺は雑音の中自問自答しかできなかった。
話の整理だ。
しかし、ドライヤーはあっという間だった。
いや違う。
俺の体内時計がおかしかった。
時計の針がいつの間にか五分も動いていたのだ。
さっきまで、まだ十一時十三分だったはずなのに。
◇
何度も何度も、その積み重ねによってどんなに扱った信頼も好意も消え失せてしまうことを今の俺は知っている。
社会人になってから、いやそれよりも大学四年生になって研究が本格的に始まってから言われるようになったことがある。
それは”ほうれんそう”と言う言葉だ。
誰でも知っている言葉だと思う。
ほうれんそう――それは”報告”、”連絡”、そして”相談”。
この三文字の頭文字を取って作られている基本の言葉である。
どんな時でも何かあれば報告、連絡をして、分からないことがあれば自分で考え、それでも分からない場合、責任を伴う場合は相談をする。
基本中の基本、いわゆる掟みたいなものだ。
言われてから気にするようにはなったが、高校生の頃なんて”ほ”の字も知らなかった。
まさに、自分勝手だった。
彼女が我慢できなくなるまで、連絡さえしていなかった。できなかったと言い訳をしていた。
あれからは終わってから連絡、約束も守れなかったことばかりだ。
誕生日も祝えず、ようやく取れた休憩日には別れ話をされて。
そりゃ一か月も何も出来なかったら、嫌いになっても仕方ないだろう。
自分のことは他人でも理解できる。分かってくれる。
その驕り高ぶりが俺の、そして俺たちの敗因だ。
◇
「先輩、その……お風呂貸してくださりありがとうございます」
向こう側から歩いてくる栗花落の姿が見えてくる。
過去と向き合うため、きっとこれは難しい話になると思う。
でも、俺はやっぱり。
そんな後悔の念を残しておくのは嫌だった。
あとがき
前後編に分けてしまい申し訳ないです。
続き読みたいなと少しでも思っていただけたらぜひ、フォロー、応援、コメント、そしてレビューしていただけると大変励みになりますのでよろしくお願いします!
一位取りたいものですね。
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