第5話「弱くて脆くて勝手な自分が嫌いだ」

 

 ※勝手な修正失礼しました。




 週末、一週間のまとめ業務を終えた私は帰路についていた。


「それじゃあ、明日頑張ってきてね〜」

「え、えぇ」

「何真っ赤になってるの。あと、せっかくならいい男、処女の私に紹介する話忘れずにね?」

「っで、できたらね。多分無理だから!」


 普段通りの道を普段通りの分かれ道で手を振って分かれる私と純怜。


 一体どこまで本気で言ってるのか言っていないのか定かでもないが、もしも私に心の余裕があれば彼女に男を紹介してあげよう。


 薄暗い道。

 夕陽はとうに落っこちて、真っ白に光り輝く月が顔を出し、街灯と一緒に道を照らしていた。


 北海道の冬は早い。

 そして、冬の日照時間はあまりにも短い。


 朝は薄暗いし、登校する時間になっても暗いこともあるし、高校らへんにもなってくると夕方には空がもう隠れていて気分的に下がってしまう。


 そのせいか私はあまり冬は好きじゃない。

 

 いいところはクリスマスには雪が積もっていてホワイトクリスマスが楽しめるくらいで、スキーもスケートもやったことのない運動音痴な私からしてみればあまり好きな季節ではなかった。


 大学の四年間も北海道で過ごしていた私にはわからないが本州も同じなのだろうか。


 そんなことを思いながら歩いていく。


 ただ一つ、複雑な理由も存在した。

 この季節は思い出しちゃうからだ。


「……好きです、か」


 思わず口に出す言葉。

 今から八年前の同じ季節に勇気を振り絞って言った地味な私の言葉だった。


 どんな告白をしたかはもう覚えていない。それよりも振ったことに対する長年の後悔から別れの時の方がよく覚えている。


 何度も思うが酷いのは私だった。

 つけ上がっていた馬鹿な女。


 頭の中がお花畑状態で、彼の言動一つ一つが全ていいことのように見えていて。


 いや実際、先輩は物凄くかっこよかった。


 地味で可愛くもない、そして自信すらなかった私にとっては眩しいほどだった。


 運動はできる。

 勉強もできる。

 気も効いて、思いやりもある。


 何よりも声が好きだった。


 カラオケとかで歌を歌う時はそれはまぁ下手で不甲斐なさそうな顔をしてたけど、学校からの帰り道に楽しそうに話す声音は今でも少しだけ耳に残っている。


 知らないサッカーチームの話題。

 日本代表の若手が躍動したとか、W杯は一緒に見ようとか。

 本当に楽しそうに話していて、それを聞けている私は世界で幸せだと思っていた。


 でも高校生の恋愛ってそう長くは続かない。


 慣れていくと魔法が解けていく。

 受験で連絡が遅くなる。遊ぶ時間も短くなる。一緒に帰る日も月に数回程度。


 受験生なら当たり前だと言うのに、それそれらを蔑ろにしていて続くわけがなかった。


 好きを人質にしていた。

 


「……」


 道端に落ちている石を自分だと思って蹴り付ける。


 からんころん。

 音を立てて転がっていく。


 きっと、今から数時間後。

 私は先輩の家で謝っているのだろう。


 頭を下げて、誠心誠意。

 愚かな私を許してとは言わずに粛々に謝って。


 それから体験期間となる来週まで家政婦の業務を経て、未練を果たす。


 決めたはず。

 そう決めたはずなのに少しだけ恐れと不安があった。


 怖かった。

 

 心に浮かぶのは……喪失感。


 今更な話だと思う。


 あれから他の男の人とも体を重ねて、今更どうして初恋の相手に想いを抱いているのか自分でも理解できない。


 理解ができない、でもそう思ってしまう。

 我儘ってやつだろう。


 釣り合いがないのは私だ。

 幕引きだっだ。


 それなのに、どこか期待している私もいて不甲斐ないばかり。


 これから、これから。

 言うのに。


 何を思い出してるんだろう。

 キモい私。




 帰宅してご飯を作る。

 変わらない時間。

 料理は大学生の頃に一通りしていたこともあって特に苦労はしていなかった。


 というよりも、料理自体女性なら皆できるものだと考えていた私は当然だと思っていた。


 料理自体レシピを見れば作れるし、基本的に反復練習で包丁での皮の剥き方もさほど難しくもない。


 そのくらいはできるだろうと思っていたけど、純怜に出会ってからそうでもないのだと知った。


 最近は料理を作る男がモテる時代だから女は作らなくていいなんて言ってきてよく言い合った気もする。


 なんてくだらないことを考えているとパスタが茹で上がる。


 適用にザルにあげて、湯を切り、フライパンの上に乗っけて卵と玉ねぎ、そしてもやしを乗せて麺つゆと出汁の素を混ぜ合わせる。

 

 結局、料理自体は先輩に作ってあげる機会はなかった。


 上達する前、というよりも機会はたくさんあった。


 ただ余計に考えすぎる私は恋愛漫画のようにものすごいチョコを作れる自信もなく、下手に作っても嫌われると思ってバレンタインも市販のをあげて逃した大馬鹿者だからだ。


 お詫び作ってあげたかったななんて頭の中で考えながら啜って食べ終わり、お風呂に入ろうとするとシャンプーが切れていたことに気づき近くのスーパーまで買いに行こうと家を出た。


 肌寒くマフラーを巻いて、やや小走りで向かった。


 いつも買っておるシャンプーを無事に買い終わり、そして河川敷を通って橋の下へ。


 ゆったりお風呂にでも入って、明日のことを考えよう。


 そう思っていた時だった。


「うぅ……」


 声が聞こえた。

 しかし、声と言っても人間のそれではなかった。籠ったもがくような声で、どこか子供のように不自然に高い鳴き声だった。


 辺りを見回すと別に周りに人影も動物もいない。


 川の流れる音を聞き間違えたのかなと思ってまた歩こうとすると


「きゃんっ!」


 今度は跳ねた音が聞こえてきた。


「きゃんきゃん! うぉん!! わぁん!!」


 私の足音に反応してるのだろうか、鳴き声が大きくなった。

 

 気のせいではない。

 どこからか声がする。


 もう一度辺りを見渡すと不自然にも毛布が被せられた段ボールが一箱だけ置いてあった。


 じっと見ていると鳴き声と共に揺れているのがみえて、恐る恐る近づいた。


 近づけば近づくほど動きも多くなり、声も大きくなっていく。


 疑念が確信に変わり、すぐさま毛布を剥いで箱を開けると、そこには1匹の子犬が入っていた。


「こ、子犬!?」


 へっへっへ。

 と舌を出しながら、私の方を見つめてくる純粋な瞳。


 その眩しさがなんとも言えなくて、両手を子犬の脇腹に添えて持ち上げる。


 ほんのりと暖かいお腹に、乱れた毛並み。

 長時間外にいたせいなのか鼻は濡れていなくて、思わず抱きしめた。


 寒い中、こんなところにずっといたのか。

 苦しくなりながら思う私に何もわからない子犬は一生懸命に笑う。







「……ねぇ、ボク。こんなところにいたら風邪ひいちゃいますわんよ?」








 気がつけば呟いていた。

 明日から家政婦の副業、平日は仕事、飼える時間も余裕もない。


 誰か一緒に見てくれたなら……そう思った時だった。



「あの……」


 背中側からそう呟かれた。

 一瞬でギョッとした。


 血の気が引いていくのが手に取るようにわかり、体温がみるみると冷たくなっていく体を感じる。


 焦りなんかより、驚きがかった。


 そう、私の後ろに立っていたのはスーツ姿の、おそらく仕事帰りであるだろう。


 私が謝ろうと思っていた未練しかない昔の想い他人、元カレの藻岩哉先輩その人だった。


 

 




 いつも思う。

 どうして先輩は私の求めた時来るの。


 ずるい、ずるいよ。

 最低な女に、後輩に。

 

 優しさいっぱい。


 弱くて脆くて勝手な自分が嫌いだ。






あとがき

 急な編集改稿申し訳ございません。

 プロローグ2から書き直しましたのでまたそこから読んでもらえると幸いです。


 また、続きが読みたいなと思ってくれたら励みになりますのでぜひフォロー、レビュー、応援、コメントよろしくお願いします。

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