第20話
夏休み明けの登校日が金曜日であったため、またすぐに土日と休みである。
なので僕は今日、お気に入りの小説を持って昨日のカフェへと来ていた。
何か面倒なのに絡まれた覚えがあるけども、今日は一人だからゆっくりと出来るはずだ。
先輩からあった誘いのメールは用事があると断ったし。
絡まれたおかげで知った経緯はあるけども、面倒ごとは早く忘れるに限るのだが、世の中そう上手くいかないこともある。
「昨日ぶりですね、神宮さん」
「あの、席変えてもらうことって出来ますか?」
日の当たらない席、冷房の効いた涼しい店内、美味しいカフェオレ。
それらを堪能しつつ読書をしていたのだが。
昨日の子が店に来て僕を見つけるなり、許可もなく対面へと座ってきた。
名前は忘れたけれど、なんとなく顔に見覚えがある。
席替えは叶わなかったため、今日も食事は諦めて帰るかと小説を仕舞う。
「あの」
「いいよ。僕、もう帰るから」
「ま、待ってください!」
大きな声が響き、店内にいた他の客からの注目を集める。
店員がやってきてお静かにと注意を受け、謝っているのを傍目にカフェオレを啜り、彼女が落ち着くのを待つ。
「手短に済ませてね」
「…………」
別に僕が悪いわけでもないのに、何か言いたげな顔をして見てくる。
結局、何か言ってくるわけでもなく水を飲んで一息ついた後。
彼女は僕に向けて頭を下げる。
「昨日はすみませんでした。私の態度にも非がありました」
言外にお前もあったぞと言ってきたわけだが、そんなことは……うん、少しはあるかも。
でも別に僕は謝罪を求めていたわけでは無い。
昨日のことについての謝罪が今回の目的ではないだろうし、謝るぐらいだったら用事をさっさと済ませて欲しい。
「昨日のことはもういいよ。用件は別にあるんでしょ?」
思えば昨日、彼女がここに連れてきたから僕が知ったわけで。
もしかしたら彼女の行きつけの店である可能性もあるわけだ。
つまり、今回諦めたとしてもここに来るたび高確率で彼女と会うかもしれないわけで。
「すみません。ハヤシオムライス一つ」
なら済ませておきたいことは早めに済ませておこうってことで、昼食を頼むことに。
また何か言いたげな顔をして僕のことを見てくるが、ため息をつくだけであった。
「用件の前に1つ、お聞きしてもいいですか?」
「いいよ」
「……昨日、私の分も払っていただいた理由をお聞きしても?」
いいか悪いか聞かれたからいいと答えたのに、その返事にどこか不満がある様子に見える。
けどそのことに対して文句を言っても意味がないと分かっているようで、一呼吸置いて気持ちの整理を付けてから口を開いた。
何を思って聞いてきたのかその意図について少し考えるが、すぐに意味のない事だとやめる。
彼女の中で僕に対するイメージがどうなろうが知ったこっちゃないのだ。
本当か分からないが先輩の従姉妹であるらしいので、このまま付き合っていたら今後も会う可能性があるけれども。
その時はその時である。
「み、みつ…………君に奢ったわけじゃないよ。無駄なことに時間を割いた自分に対する勉強代」
話半分だったというより、興味ない人の名前を覚えられないため。
頭二文字しか出てこず、諦めた。
三文字だから後一文字のはずなんだけどな……。
「お待たせいたしました。ハヤシオムライスになります」
「ありがとうございます」
タイミングがいいのか悪いのか、頼んでいた料理が届き、美味しそうな良い香りが漂う。
だがこれは香りがなくとも見ただけで美味しいとわかる逸品だ。僕には分かる。
スプーンを手に取り、まずは一口。
「あ、美味しい」
思わず口に出してしまい少し恥ずかしい。
誰も気にしてないよなと顔を上げたところで対面に座る女性が目に映り。
ああ、そう言えば三浦さんだったか、居たんだよなと思い出す。
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