第18話

 校長室での桜の立ち会いに担任の先生もいるため。

 代理の先生が連絡事項などを伝え、解散となった教室にて天堂瀬奈はクラスメイトと雑談をしながら桜を待っていた。


「失礼。神宮桜君はいるだろうか」


 そこへ桜内葵が現れ、呼びかけながら教室の中を見回し。


「…………」

「…………」


 その視線は瀬奈に向けられたところで止まる。


 色んな意味で有名な桜はこの二人に関する人間関係も学校中に知れ渡っており。

 空気が悪くなったのを生徒たちは敏感に察していたが教室を後にすることはなく、どのような会話が行われるのか聞き耳を立てていた。


 先ほどまで瀬奈と話をしていた子もスッと離れていき、自身の荷物を片付けるフリをしている。


「少し、話がしたいんだがいいかな?」

「奇遇ですね。私もそう思っていたところです」

「場所を変えようか」


 騒ぎを察してから、隣のクラスだけでなく他の学年まで廊下に集まり始め。

 ため息をついた葵は場所を移すため教室を出ていき、その後を瀬奈も荷物を持って追いかけていく。


「まさか盗み聞きをする人なんて──いないよね?」


 まさにしようとしていた事を葵に釘刺され、生徒たちはそっと目を逸らす。


 二人の姿が見えなくなり、残された生徒たちはぼちぼち動き始め。

 十分もしないうちに教室は空となっていた。






 空き教室へと移動した葵と瀬奈であったが、互いに向かい合ったままどちらも口を開くことはなく。

 相手の頭の先から爪先までをじっと眺め、観察していた。


 しかし、いつまでもこのままというわけにといかないため。


「それで話したいことってなんですか。私、桜と一緒に帰りたいんですけど」

「彼女である私が彼と一緒に帰るから大丈夫だよ。元カノの君は大人しく一人で帰るといい」


 早く話すよう口を開いた瀬奈だが、葵の返す言葉を聞いて拳を握る。

 けれど感情任せにそれを振るうことはなく、深呼吸を一つして心を落ち着かせ。


「桜の誕生日も祝っていない人に彼女ヅラされても」


 先ほどまで自身が優位だと思っていた葵を固まらせる一言を放つ。


「その様子じゃ先輩、桜から誕生日も教えてもらえていないんですね」

「……誕生日を祝わなくても大丈夫なほど、私と彼は深く交わっているからな」

「桜は自分から求めないけれど、一度始めたらこっちの体が持たないですもんね」


 なんとか言い返そうとする葵だが、恋人で行う大半の事は瀬奈も済ませており。

 今の手札では敵わないため口を閉ざすが。


「確かに、彼との思い出は君のほうが多いようだが、今の恋人は私だ。ゆっくりと時間をかけて君との思い出を上書きしていくことにするよ」


 ただ一つ、葵は瀬奈との違いを見つけ、余裕を取り戻す。


「あ、そのことなんですけど、先輩、桜と別れてもらっていいですか?」

「何を言っている? 別れるわけがないだろう」

「別れるというより、付き合っているのをなかったことにしてもらう感じですかね。私と別れたことになってるんですけど、それ桜の勘違いで。私と桜は今も恋仲なので」

「彼はそのようなことを一言も口にしていないし、君に意識が向いている様子もなかったが」


 このまま話していても相手が引かないことは理解しているため、桜から詳しい話を聞かなければと互いに思い始めたとき。


「……ん?」


 校門のあたりに人だかりができているのを葵は見つけ、目を凝らしてみれば。

 見覚えのある車に桜が乗り込んでいくのが見え。


 そしてその車は何事もなく発進し、どこかへと向かって行ってしまった。

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