第17話

 あれから瀬奈が家に来ることはなかった代わりに、先輩はほぼ毎日のようにやってきた。

 きちんと前日までには連絡がきているため、僕が許可を出しているからなのだけども。


 宿題を手伝ってくれる予定のはずがそうでなかったりと色々あったが、途中から鬱陶しくなり。

 それが伝わったのか週二、三にまで頻度が減ったし、キチンと宿題も見てもらったので予定していたよりも早く終わった。


 夏休み最後の一週は自分の時間でのんびりしたかったから来ないよう伝え、連絡も気が向いた時にだけ返していたため。

 恋人であるよりも頻繁に連絡を寄越す友人みたいな感じである。


「……はぁ」


 そんな今では暦も九月に入ったというのに外へ出れば夏のような暑さが出迎えてくれる。

 冷房が効いているとはいえ全生徒が集まった講堂は息苦しさを感じ、思わず息が漏れてしまう。


 校長とはいえ知らないおっさんの話を好き好んで聞く人など少数であり、自身も話を聞き流しては夏休みにあったことを思い返したり、ネット騒ぎで手に入ったお金で何を買おうか考えてはなんとか気を紛らわしているが。

 おそらくはネットの件について知っているだろう人が、チラチラとこちらを見てくるため地味に神経を削られる。


 あれは一先ずの落ち着きにはなったものの、今回の原因である人がそれなりに有名であったらしく、一部のファンが面倒なことになるかもしれないと伝えられた。

 札束が歩いてくるようなものだが、面倒であることには変わりないので来ないなら来ないで構わない。

 面倒にあった額が貰えない場合もあるため、むしろ来ないでほしいまである。


 今後、どうしようかなと大雑把に考えを巡らせていれば、何一つ心に響かない話が終わったようで教室へと移動を始めており。

 ダラダラと歩いていくクラスメイトの後をついていこうとすれば何故だか僕だけ先生に呼ばれ、そのまま校長室へと連れていかれた。




「何故呼ばれたのか、分かるかい?」

「いえ、さっぱり」


 こうなるのが面倒だから僕は大人しい学園生活を送っているため、何故と聞かれても答えられるわけがない。

 校長に学年主任、生活指導に担任の先生も集まっており、なんだかピリついた雰囲気となっている。


「本当に何もないかい?」

「あの、早く帰りたいんで。用件だけ話して下さい」

「お前、教師に楯突いてカッコいいとか思ってないか?」

「なんで呼ばれたんですか。僕」


 何故、生活指導は体育会系の人がやるイメージが強いのだろうか。なんてどうでもいいことを思いつつ。

 今も僕に無視されてキレ、殴ってきそうなのを学年主任と担任が止めている。


 確かに言われた通り、カッコいいと思わなくもないが、どちらかといえば面倒だから早く終わらせてほしい思いの方が強い。


「こういった面倒が嫌なので大人しく学園生活を送ってきたつもりですけど」

「ほ、ほらっ、夏休みの間に何かなかったかい?」

「…………ああ、ネットの件ですか?」


 本当に分からないのが伝わったのか、担任の先生が話を進めるため助言をしてくれる。

 夏休みに起こった大きな出来事といえばそれくらいしかないが、果たして何の関係があるのだろうか。


「そう。その件で三年生が二人ほど停学処分になってね。片方はスポーツ推薦、もう片方も某大学の推薦があったんだが……」

「今回の件で無くなったんだよ! お前のせいでな!」

「それ、僕に何か関係あります?」


 それとこれと、何かしらの関わりはあるのかもしれないが、僕は何故呼ばれたのだろう。


「……自分が何をしたのか分かっているのか? お前のせいで二人の未来を潰したんだぞ!」

「せ、先生。一度落ち着いて……」

「今回の騒動で訴えられた中にその二人がいたらしくてね」

「ああ、成る程。理解しました」


 なんだ。僕、全然関係ないじゃん。


「ただの自業自得ってことですね」

「どういう事かな?」

「停学になった二人を僕は知らないですけど、ネットの騒ぎに便乗して二人が法を犯しただけの話ですよ」


 名簿と何をやったかのリストを貰っているので二人の名前を聞き、探してみれば。


「二人とも、僕のプライバシーをネットに晒したっぽいですね」


 その後にも色々とありもしない事を書き込んでるっぽいけど。


「そうか。……今日はもう帰りなさい」


 僕としてはもう来たくはないのだが。

 そもそも呼んだのはそっちなのにと思わなくもないが、余計なことを口にしてこれ以上長引かせるのも嫌なので大人しくこの場を後にする。


 教室へ戻ればそこには誰もおらず、自身の机の上にプリントが数枚置かれていた。

 それらをカバンにしまい、昇降口で靴に履き替え。

 帰ったらゲームでもしようと考えながら歩いていると、校門の付近にまだ生徒がたむろっているのが見える。


 こんなところで何をしてるんだかと思いながらも避けて帰ろうとしたのだが。


「神宮桜さん、ですよね?」

「いえ、違います」


 人垣が割れ、中心にいたであろう見知らぬ女の子が声をかけてきたので反射的に否定してしまった。

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