第12話
「僕、日本の実写映画ってそんなに好きじゃないんですけど、今回のは良かったですね」
「そうか。楽しんでもらえてよかった」
最後、膵臓の病気ではなく殺人犯に刺されるのも個人的には好きだ。
中には納得しない人もいるだろうが、あり得ない話ではないし、キチンと前半部分に伏線があった。
僕的には最後、交通事故で死んでいてもいい映画だったと口にしていただろう。
その方がより現実味があるし。
これはあくまで創作の話だから、そこまでリアリティーを求めなくてもいいのか。
「先輩、お昼食べた後はどうします?」
「そうだね。今は特に欲しいものも無いし、このまま解散でもいいんだが」
「なら僕、マンガ買いたいので本屋行きますね」
「あ、ああ」
なんとなく、先輩は他に行きたいところがあるのではと思った。
僕はあまり人の機微に聡いわけではないが、これだけ態度に出ていれば十回に五回ぐらいは分かる。
遠慮せず行きたいところ言ってください、と先輩に伝え。
「僕も面倒だったら遠慮なく断るんで」
と続ければ、先輩も言うだけならタダだしなと吹っ切れたようで。
「君の家に、行ってみたい」
「まあ、それくらいなら」
どこに行くのかと少し身構えていたが、僕の家ぐらいなら。
遊びも最初から僕の家ならば、外に出る労力が無くて楽なのに。
「それじゃ、マンガ買ったら僕の家に行きますか」
「やっぱり、私が出すぞ?」
「映画の分を受け取るなら考えます」
食休みも終え、レシートを持って立ち上がろうとすれば先輩が待ったをかける。
けれども先輩が食べた分は映画の金額まで届いていないため、総合的に見れば僕の方が少ないのだ。
「別に僕としてはプライドなんてないので先輩に全部出して貰っても構わないんですが、そういった関係って恋人って言えるんですかね?」
男が奢るのは当然。
割り勘が当たり前。
お金持っている方が出せばいい。
世の中、いろんな考えがあるけれども。
「気持ちが通じていれば、どうあろうと恋人だろう?」
「僕、別に先輩に恋愛感情を抱いているわけじゃないですけど」
結局、僕としてはデートに来たというより、ただ遊びに出かけただけという印象が強い。
先ほど口にしたように、僕に対したプライドなんてないので奢られても構わないのだが、一応は賭けオセロの願いとして付き合っているのだ。
ならばそれらしい行動は最低限してみようと思っている。
面倒になったらやらないけど。
「今はまだそうかもしれないが、そのうち私がいなければ寂しいと思うようになるさ」
よく分からないけれど、今回はおとなしく引き下がるようで。
会計を済ませ、本屋へと移動を始める。
「……なんか、見られてないですか?」
「素敵なカップルだと羨ましいのだろう」
「そんな感じじゃないような気もしますけど」
そう口にしても先輩は気に止めることなく、カップルだと思われて嬉しいのか繋いでいる手に力を込める。
僕は何か違和感ある気がしていた。
スマホと僕を見比べ、一人じゃない人はツレとコソコソ話をしているのだ。
けれど少し考え、心当たりは特にないため。
無駄な時間を使ったと気にしない事にした。
「先輩ってマンガとか読むんですか?」
家に行った時は本棚はあっても参考書や教科書しかなかった気がする。
「私だってマンガぐらい読むさ。専用の部屋があるから、今度来た時に見せてあげよう」
「それはちょっと、楽しみです」
親が本を読む人なので僕の家にも専用の部屋があり、その一角をマンガ置き場にさせてもらっている。
どのようなマンガを読んでいるのか気になり、少しだけ先輩に興味が湧いた。
目当てのマンガを買い、帰りも注目を集めている事に少しだけ引っかかりを覚えながら先輩を連れて家に帰った時。
登録している人も少なく、ほとんど動かない吹き出しアイコンのSNSに通知が届いた。
珍しいなと思いつつ開いてみれば瀬奈からであり。
『あんた、ネットで話題になってるけど何やらかしたわけ?』
ただ簡潔に、そう書かれていた。
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