第10話

 隣を歩く先輩をチラリと見て。

 もしかしたら僕に会うためだけに毎夜、コンビニからコンビニへとランニングをしているのではと少し考えてしまい、面白くて笑みが溢れてしまう。


「何かおかしな事でもあったかい?」

「ちょっと、思い出し笑いを」

「なるほど。私もたまにあるよ」


 恋人になったからといって僕は接し方を変えるつもりはない。

 けれど向こうもそうとは限らず、その変化を僕も嫌じゃなければ受け入れる。

 つまり何かといえば、僕は今、先輩と手を繋いで歩いているという事だ。


 たまに力を込めたりして感触を楽しんでいる先輩の横顔は夜という雰囲気でまた一段とカッコよく、それを知っているのは僕だけなのかと思うと優越感を抱く。


「そういえばなんだけど」

「ん?」


 先輩の家までもう少し、といったところで先輩が足を止めたため。

 手を繋いでいる僕も必然的に止めざるを得ない。


「君はプールとか好きかい?」

「どちらかといえば行きたくないくらいには嫌いですね。海も」


 どうしたのかと思えば、たぶんデートの誘いだろう。

 残念ながらプールや海は行く気にはならない。

 海水浴じゃなく、雰囲気を楽しむだけならば海も悪くはないと思っている。


「そっか。……なら映画はどうだろうか?」

「んー……いいですよ」


 今の気分なら、行ってもいいと思える。

 今日の散歩は止めておけば良かったと思っていたが、先輩のおかげでなんだかんだいい気分転換にはなった気がするから。


 当日になって行くのが面倒になったりするが、前から約束していればさすがにドタキャンはしない。

 嫌になって断ったりすることもあったりするけど、そんなのは稀である。


「なら、来週の月曜日で大丈夫だろうか」

「良いですよ」

「チケットは取ってあるから、当日は駅待ち合わせで」

「分かりました」


 先程よりも上機嫌となった先輩を家まで届け、自分も家へと足を向けたわけだが。


「…………」


 また、どこからか視線を感じた気がした。

 けれど振り返り見ても夜道が続くだけであり、人影は見当たらない。


 先輩といた時は気にならなかったから、やっぱりこれは気のせいであり、話を聞いて変に意識をしているからだろう。

 明日、おっちゃんが店に来たら文句を言ってやると決めた。


 だがそう思ったはいいものの、普段なら大して気にしないはずのことを今回はなぜこんなにも意識しているのだろうか。


 結局、帰るまでずっと視線を感じ。

 家に入る前にも視線を感じた方をジッと見てみたが、何かがいるわけでも無かった。

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