第9話
今日はやらないつもりであったが、おっちゃんの話が引っかかって変な気分であるため。
夜の散歩に出かけてスッキリさせることにした。
「…………」
いつもと変わらない夜の散歩であったはずだが。
家を出てしばらくし、誰かに後を付けられているような感覚に陥る。
実は異世界勇者の末裔でした、とか。
異能力に目覚めました、とか。
そんなのは創作のものでしかなく、僕は至って平凡な人である。
十回に二回ぐらいは当たったりするが、それは学校での話であり、こんな街中では気のせいでしかない。
引っかかりをスッキリさせるために散歩を始めたというのに、この散歩のせいで余計にモヤが大きくなってしまった。
こういった日は何回かあるため、少しの苛立ちを抱えながら散歩からコンビニへと目的を切り替える。
これ以上は意味がなく、寝て一度リセットした方がいい。
だけどこういった時に限ってコンビニは近くになく、知っている場所まで少し歩かねばならなかった。
その間も視線はずっとつきまとい、振り返っても街灯に照らされた夜道が続くだけ。
怖いもの見たさではないが、角を曲がって待ち構えていたら誰かしら出てくるのだろうか。
なんて事を考えつつ、現状何も仕掛けてこないのならば下手に刺激しない方がいいかと考え。
「……ふふっ」
いつのまにか僕の後をつけている人がいる前提で考えていたことに気付き、思わず笑ってしまう。
ストーカー被害ってのは実際にあるのだろうが、自身が当事者になるだなんて殆ど無いし、そこまで僕に関心を持つ人なんていない。
やっぱり全部はおっちゃんのせいじゃないかとボヤきつつ、ようやく着いたコンビニへと入っていき。
いつもとは変えて炭酸のジュースを手に取る。
支払いを終えてパーキンブロックへと腰掛け、一発目の炭酸が勢いよく抜けていく音に心地よさみたいなものを感じながら一口。
開封したてで強い刺激を感じながらボーッとしていれば、誰かに持っていたジュースを奪われた。
「…………先輩、夜道に一人は危ないですよ」
「それは君だって同じだろう? 夜道に男も女も関係ないさ」
そこにはいつぞや会った時と同じ格好の先輩が居り、僕の買った炭酸を美味しそうに飲んでいる。
ちょっとした意趣のつもりで漏らした言葉に真っ当な返しをされた僕は口を閉じ、改めて僕の炭酸を飲んでいる先輩に目を向ける。
この間とは違うコンビニだというのに、こうまでして遭遇するだろうか。
だとしたらずっと後をつけてきたのは先輩?
「そんなわけないか」
「ん? どうかしたかい?」
「いえ、何でもないです」
アホらしい考えに苦笑いを浮かべる。
確かに先輩は僕に告白してきた変人という扱いに位置しているが、そこまでするほど僕に興味があるわけでもあるまい。
立ち上がり、一口しか飲んでいないのに半分は無くなっているジュースを先輩の手から取り返して一気に飲み干し。
ゴミを捨て、何かを待っている様子の先輩に声をかける。
「それじゃ、送りますよ」
「ああ、よろしく頼むよ」
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