第7話
食事を済ませた後、すぐ部屋に行くのかと思えばリビングだと思われる広い部屋でお茶を飲みながらオセロをしていた。
会話は当たり障りのない、明日には忘れているような内容で、互いに勝ったり負けたりを繰り返している。
「…………先輩」
「ん? なんだい?」
後一個置けば終わる盤面。
僕の番で勝ちが決まっている。
コマを置き、ひっくり返しながら先輩のことを呼ぶ。
既に勝負が決まっているからか、先輩はカップに残っていたものを飲み干してメイドさんにおかわりをもらっていた。
「僕たちって、付き合ってるんですかね?」
「…………」
「…………」
「…………」
先輩からの返しがないため、僕も自然と口を閉じてしまう。
今更ながら考えればだいぶ地雷を踏み抜いたような気がする。
ずっと変わらず笑みを浮かべているが、先ほどまでよりも質が違うような気がした。
人の心なんて読めないから、気のせいかもしれないけれど、外れてないように思える。
取り敢えずオセロのコマを四つ残して片付けていく。
いつでも始められる状態になってようやく先輩が口を開いた。
「そうだったね。私から告白して、やることもやったわけだが……君からの返事を聞いていなかった」
「本来なら雰囲気的に付き合ってるんでしょうけど、一応聞いておこうと思って」
「ふむ、そうだね。…………それじゃ、こうしないか?」
そう言って先輩はオセロを指差す。
「次の勝負で勝った方が負けた方に何でも命令できる権利を持つ賭けをしよう。私が勝ったら付き合ってもらうと言うつもりだ」
「先輩がそれでいいのなら」
おそらくこれで最後の対局になるだろうし、いい時間だ。
僕もメイドさんからお茶のおかわりをもらいつつ、後手を選んだ先輩をちらりと見る。
オセロは後手が有利となっている。
先ほどまでしていた対局も後手になった方が勝っているし、先輩はこれを見越して賭けを持ち出したのだろう。
もし先手後手が逆だったのなら、話で一局繋げてから賭けの話を持ち出したはずだ。
「それじゃ」
最初はどこを打っても変わらないので悩むことなく黒を置き、一つひっくり返す。
倍ほどの時間がかかり、ようやく賭けオセロの決着がついた。
僕としては勝敗に興味はなかったため、深くは考えないでやっていたのだが先輩はそうでないらしく。
中盤以降は随分と長く考え込んでいた。
そこまでして付き合いたいのならわざわざこんな事をしなければ良いのに。
「黒三十二の白三十ニ。……これは引き分けですね」
「…………君、さっきまでの対局で手を抜いていたかな?」
「手を抜いているといいますか、気楽にやっていたといいますか。僕、アーケードよりもコンシューマーやボードゲームの方が得意なんですよ。後は知り合いにとても強い人がいるからですかね?」
得意といってもプロには勝てない。
今でこそ知り合いの強い人に三割くらいで勝てるようになったけど、初心者の頃から手加減なしでボコボコにされてきた。
そのころより多少なりとも強くなっているとは思う。
「引き分けですけど、どうしますか?」
少し顔をうつむかせた先輩が何を考えてるのか分からないけれど、このまま終わるとは思えない。
少し間があるだろうと思い、コマを片付けていく。
今日はこれで終わりだろうし、全てしまっても良いだろう。
「互いに権利を持つというのはどうだろうか?」
最後の一つをしまい終えたところで先輩が顔を上げ、口を開く。
自分で言うのもなんだが、そこまでして僕と付き合いたい魅力というものがあるのだろうか。
「いいですよ」
「なら、先ほども言ったように私と付き合ってくれないか?」
「僕、恋人だからって優先したりしませんし、面倒だったら誘いとかも断りますけど、それでも構わないのなら」
「構わない。私は死ぬまで君に尽くすと決めている」
キザなセリフも先輩が言うと違和感がない。
真っ直ぐに僕を見てそう口にした後、立ち上がってこちらまでやってきたかと思えばキスをしてきた。
「今はその気がなくても、時間をかけて私のことしか考えられないくらい夢中にしてあげるさ」
愛おしそうに僕の頬を撫でた後、もう一度キスをしてギュッと抱きしめてくる。
それはまるで私のものだと子供のように主張しているようであった。
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