③
その瞬間、せき込む紗枝の手を取り、走り出す。
白い煙の尾を引きながら仏間から出ると、廊下を進み、玄関で靴を履くと、外に飛び出した。
転びそうになりながらも、祖母の家から走り出す。振り返ると、真っ白になった伯父さんたちが僕に向かって叫んでいた。その言葉すら置き去りにして、僕たちは走り出す。
走る。走る。走る。
祖母の声が追い付いて、僕に怒鳴った。
『お前! 自分が何をやったかわかっているのか!』
「うるせええっ! さっさと地獄に行ってろクソババア!」
祖母の声をかき消して、そう叫ぶ。
一緒に走る紗枝も、興奮したのか、「あっはっはっは!」と天を仰いで笑った。
道路に出た瞬間、車が走りこんできて轢かれそうになる。身を捩ってひらりと交わし、端に逸れつつ、また高らかに笑った。
もう聞こえないよ。
嫌なことは聞こえない。
声が出るよ。
心の声だ。
輪郭を伴った、僕の心臓だ。
「なあ! 紗枝!」
「なあに?」
「結婚するか!」
「しようしよう!」
「セックスでもするか!」
「しよう!」
「酒が飲みたいんだ!」
「私はまだ無理!」
「タバコはやめとく!」
「それがいい!」
めちゃくちゃなことを叫びながら、僕たちは走った。
走って、走って、走って…、すべてを置き去りにした場所にたどり着く。
振り返ると、地獄の炎みたいな色の夕日が見えた。僕たちを飲み込もうと、雲が迫ってくる。夕闇の肌寒さが背中にかみついて、足元を掬う。
それでも僕たちは、笑うことを止めない。走ることを止めない。
生きることすらも、止めない。
きっと、これから僕が進む道は、茨の道なんだと思う。
だけど、僕には声がある。
隣には、彼女がいる。
この声を使って、寂しいときは寂しいって。嬉しいときは嬉しいって。
形にするんだ。
そうしている間は、きっと大丈夫だろう。
きっと、泣きながら生きていける。
とりあえず、今日の晩御飯は、カレーの辛口で。
完
テルミーグランマ バーニー @barnyunogarakuta
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