⑤
紗枝が帰って来るまで、眠ることで寂しさを紛らわせよう…。そのつもりで、僕は布団に横になり、目を閉じたのだが、事は僕が思うようにうまくは進まなかった。
朝夕は涼しいが、昼はまだ夏の気配を残している。
窓を閉め切った部屋は蒸し暑く、眠れたものじゃなかった。しかたなくカーテンを開け、窓を全開にするのだが、切羽詰まった蝉の鳴き声がうるさかった。
最後の手段として、エアコンを点けた。少し黴臭いけれど、暑さによる苦しみは消え失せ、それは紗枝と一緒に干した布団の柔らかさと相まって、すぐに眠気を誘った。
ああ、やっと眠れる。
まるで、タイムスリップするかの如く、意識を失いかけたその時、部屋の扉がコツコツ…と叩かれた。
僕は電気に触れたみたいに起き上がる。
肉体が、そのノックの音を紗枝のものだと理解したのだ。だが、もちろん、彼女は今、学校で勉学に励んでいる。扉の向こうで扉を叩く者が、彼女なわけがなかった。
じゃあ、誰だ…。
「黒澤君、いるんだよね?」
管理人さんのものだった。
「…………」
僕は布団の上に立ったまま固まった。
居留守を使おうか…? と悩んだが、今、僕はエアコンを点けている。部屋の室外機でバレるに決まっていた。
「……ああ、くそ」
僕は頭を抱え、玄関に向かって歩き出した。
訪ねてきた管理人さんには会うとして…、この人、なんで来たんだ? 何か悪いことでもしただろうか?
「今日、水道点検だよ? 覚えてる?」
「…あ」
そう言えば…、一月前に、そんな紙を貰っていたような…。
いよいよ管理人さんから逃れることができなくなった僕は、恐る恐るドアノブに手を伸ばす。
きっと祖母なら、「約束を忘れるなんて発達障害の人間がやることだ」なんて言って、僕を怒鳴りつけるのだろうな…。
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