④
彼女は恐る恐る僕に近づいてくる。
僕はゾンビから逃げる人のように後ずさったが、扉に背がぶつかるだけだった。
「…ミヤビさん」
彼女が、僕の首に巻かれたベルトに触れる。
「何…、やっているの…?」
「…………」
「ねえ、何やっていたの?」
もう逃げ場なんて無いのに、ベルトを背中に隠した。
それをさせまい…とでも言うように、水上が手を伸ばし、僕の肩を掴む。
「…ねえ、なにやっていたの!」
「………」
彼女の息が早くなっているのがわかった。指先も震えている。目には光るものがあった。
「教えてよ…」
「…………」
「教えて!」
肩を強く揺さぶられ、視界が歪む。水の中に入ったみたいに、水上の声がくぐもって聞こえた。けれど、僕の頭の中では、祖母の声がずっと響いていた。
お前は馬鹿だ。お前は役立たずだ。お前は畜生だ。私の言うことを聞け。でないと首を吊る羽目になるぞ。お前は私から離れられない。お前は一人じゃ生きていけない。お前は私がいないといけないんだ。お前は私の子どもさ。お前は…。
「ミヤビさん!」
ゴンッ! と後頭部を扉にぶつけた。その瞬間、視界が明瞭になって、目の前の水上の泣き顔が鮮明に像を結んだ。
「………」
「応えてよ…」
彼女はボロボロと涙を流し、そう訴えてきた。
「…………」
彼女は項垂れると、絞り出すように言った。
「どうして…、私がいっぱい話してるのに…」
ああ、やめてくれ。
「喋って、くれないの…?」
プツン…と、頭の中で何かが切れた。
「…なんで、喋れないの?」
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