②
気分を紛らわせるために、近くのコンビニに向かった。
当然、気を紛らわせることなんてできるはずがなく、僕の頭の中には、ずっとさっきの会話が鳴り響いていた。
うるさい。うるさい。いつまでも、僕を子ども扱いするな。
僕はもう、大人なんだ。
何でもできる、大人なんだ。
そんなことを思いながら歩き、コンビニに着いた。客が来ないくせして、二十四時間営業。煌々と店内の光が洩れ出て、薄汚れた窓には蛾やカメムシが張り付いていた。
僕は自動扉を潜って、店内に入る。レジの前で立ったまま眠っていた男が、はっとして「いらっしゃいませ」と、寝ぼけた声で言った。
僕は、お酒コーナーの前に立った。
品だしをした後なのか、それとも元から客が来ていないからか、お酒コーナーの棚には、様々な種類の酒の缶が、所狭しと並んでいる。売り切れなんて怖くない。
僕は勢いよく手を伸ばし、その中のビールを一本、握った。投げつけるようにして、籠の中に放り込む。それから、十八禁の雑誌コーナーの前に立った。
最初に目に入ったエロ本を手に取る。女教師ものだった。まあ、ジャンルなんてどうでもいい。今は、酒とエロ本と、できれば煙草を買いたかった。
ばあちゃん、見てるか? 僕はもう、お前の思うガキじゃないんだ…。
見ろよ? 買ってやる。大人しか買えないものを、買ってやる。
見てろよ…。
僕は、レジに向かった…。
一分後…。
「ありがとうございましたー」
店員の気怠い声を背に、店を出た。
ずっしりと重いナイロン袋の中には、缶ビールの代わりに、コカ・コーラが。エロ本の代わりに、少年サンデーが。そして、水上のためのシュークリームが入っていた。
足を引きずりながら部屋に戻ると、目を覚ました水上紗枝が待っていた。
「あ…、ミヤビさん、おかえり」
「………」
僕は黙って、途中のコンビニで買ってきたものを彼女に渡した。
「あ、お土産? ありがと」
袋の中に入っていたシュークリームを見て、歓声をあげる。
「やった。私シュークリーム大好き」
水上は早速開けて、シュークリームを齧った。唇に生クリームを一杯につけて、「おいしーい」と洩らす。
少しだけ嬉しかったけれど、僕の耳元で、祖母が囁いた。
『人にものを恵んでもらうなんて、意地汚い子だね』
うん、祖母ならきっと、そう言う。
それから、僕はシャワーも浴びないで、すぐに布団に横になった。水上紗枝は「ちゃんと汗を流さないと」と言ったが、無視をした。彼女は少し不満そうだったが、すぐに僕の隣に横になって、猫のように丸くなって眠った。
朝起きたら、この悪夢が終わっていればいい…。
僕はそう切に願い、目を閉じる。
僕の枕元に、祖母が立った。
祖母は僕を見下ろすと、ため息交じりに言った。
『私は、お前に立派な人間になってほしかったんだけどね…』
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