⑤
当たり前の話ではあるが、祖母は昔ながらの人間だった。
人間の体の構造を理解していない。人間の原動力は、カロリー消費によるものだとわかっていない。全て、「やる気」「気合」というやつで何とかなると思い込んでいる人だった。
だから、僕ができないことを全て、「気が弱いからだ」と断言した。
汎用性の高い言葉だとは思うよ。確かに、あながち間違いではないのだから。
スイミングスクールの記録会で結果が出なかったのは「気が弱かったから」。
運動会で、お前の紅組が負けたのは、お前の「気が弱かったから」。
痛みに耐えられないのは、「気が弱いから」。
祖母はいつも、僕に難癖をつける。周りを気にせずに怒鳴り散らかす。
学校行事は、本当に嫌だった。
特に、授業参観だ。周りは若いお母さんなのに、一人だけしわくちゃの婆さんが教室に入ってきて、「こんな問題もわからないのかい!」「もっと手を上げてしゃべらないか!」とヤジを飛ばした。散々悪目立ちしたくせに、家に帰ったら、「あの餓鬼ども、私のことをちらちら見やがって! そんなに面白いか!」と憤慨していた。
運動会の借り物競争に出場した時、僕が、「佐藤さん」と書かれたプレートを首に掛けて、「佐藤さんいますかー?」と笑いながら観客席に入ったら、「なににやにや笑っているんだい! 真剣勝負なんだから! もっと真面目にやれ!」と怒鳴られた。家に帰ると、「なんであの時に笑っていた! 真剣にやっている人たちに失礼だろう!」と言われ、三発殴られた。
文化祭で演劇をしたときもそうだ。僕の役のセリフが短いと、祖母は怒った。「どうしてもっとセリフのある役にならなかったんだ! 積極性が無いんだろう!」と。いざ本番になって、僕が台本通りに小ボケを挟むと、帰ってから「あれの何処が面白かったんだ! 演劇を作るなら、全ての人が楽しめるようなお話にしろ!」と怒った。
小学校、中学校、そして、高校。保護者の出入りが許された行事には、いつも祖母の姿と、「気が弱いからだ」と叫ぶ声があった。
僕の青春の全てに、祖母の怒鳴り声があった。
唯一の救いは、そうやって怒鳴る祖母を見て、同級生が「お前も大変だな」と笑い飛ばしてくれたことだった。
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